産業技術総合研究所(産総研)と福岡市水道局は、水道管の腐食リスクが高い地下土壌状況を非破壊で測定する「水道管腐食度推定システム」の実証実験を2025年9月1日より開始した。この新技術は、従来の掘削調査に代わり、多大な労力と時間を要することなく水道管の更新時期を把握し、維持管理の効率化と予防保全型の実現を目指すものだ。市街地での実証は全国で初めての試みであり、福岡市中央区天神を含む市内6カ所で行われ、2026年3月末まで実施される。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の採択を受けて2023年度から研究開発が進められており、このシステムは無人走行車両に搭載された電気探査装置が高周波の交流電流を利用し、路面を傷つけずに土壌状況を測定する原理を採用している。計画的な水道管の更新を進めることで、将来的な漏水事故を未然に防ぎ、安定した水道供給に貢献することが期待されている。
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Q1: 「水道管腐食度推定システム」とは具体的にどのような技術なのか?
このシステムは、地下に埋設された水道管の周囲の土壌が、その水道管をどれほど腐食させるリスクを抱えているかを、地面を掘り返すことなく評価する画期的な技術である。水道管の腐食は、埋設後の経過期間や管の材質に加え、周囲の土壌の組成や酸性度といった環境要因に大きく左右される。従来の維持管理では、これらの要因を詳細に把握するには大規模な掘削調査が不可欠であり、これには多大な費用と時間、そして現場作業員への負担が伴った。しかし、この推定システムは、非破壊でこれらの情報を取得することを可能にし、より効率的かつ経済的な維持管理手法の確立を目指している。
Q2: どのような原理で土壌状況を測定するのか、その技術的側面は?
システムの核心となるのは、無人走行車両に搭載された電気探査装置だ。この装置は、高周波の交流電流を地中に流すことで、アスファルトやコンクリートといった路面を一切傷つけることなく、管渠周辺の土壌状況を測定する。具体的には、土壌の電気抵抗率や誘電率などの物理量を測定し、そこから土壌の組成や酸性度、水分量といった腐食に影響を与える因子を推定する。これらのデータは、水道管の腐食リスクを数値化し、どの区間の水道管が早期の更新を必要とするかを判断するための重要な根拠となる。この技術により、目視では確認できない地下の状況を詳細に可視化し、リスクの高い箇所をピンポイントで特定することが可能となる。

Q3: このシステム導入が建設現場、特に維持管理業務に従事する作業員にどのような影響を与えるか?
このシステムの導入は、建設現場の維持管理業務に大きな変革をもたらすことは確実だ。最も顕著な影響は、掘削調査の頻度と規模が大幅に削減される点にある。これにより、現場作業員は、これまで膨大な時間と労力を費やしてきた掘削作業から解放され、より戦略的かつ計画的な業務にシフトできるだろう。
例えば、従来の調査では、水道管の状態を確認するために、広範囲にわたる道路の開削や土砂の撤去が必要であった。これは交通規制や周辺住民への影響も大きく、作業員にとっては常に厳しい制約の中での作業を強いられることを意味した。しかし、非破壊測定が可能になることで、こうした負担は劇的に軽減される。無人走行車両による測定は、作業員の安全性向上にも寄与し、危険な重機作業や手掘り作業のリスクを低減する効果も期待できる。
さらに、システムが提供する高精度な腐食度推定データは、水道管の更新計画の立案を飛躍的に合理化する。これにより、劣化が進行している箇所を優先的に、かつ計画的に修繕・更新することが可能となり、突発的な漏水事故が発生する前に予防的な対策を講じることができる。これは、緊急修繕に伴う夜間作業や休日出勤の減少に繋がり、現場作業員のワークライフバランスの改善にも貢献するだろう。結果として、建設現場における作業効率と生産性は大きく向上し、人材の有効活用にも繋がる。
Q4: 実証実験の現状と今後の展開、そして全国的な普及に向けた展望は?
「水道管腐食度推定システム」は、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の採択を受け、2023年度から本格的な研究開発が進められてきた。そして2025年9月1日、全国に先駆けて福岡市内で市街地での実証実験が開始された。この実証は、中央区天神を含む市内6カ所で行われ、2026年3月末まで実施される予定だ。市街地での複雑な環境下でのデータ収集と分析を通じて、システムの精度と信頼性を高めることが現在の最重要課題である。
産総研の神宮司元治研究チーム長は、この技術が水道管の劣化につながる原因となる場所を効率的に見つけ出し、計画的な更新を可能にすることへの期待を表明している。SIPの採択期間は2027年度までとなっており、その期間中に実証を重ね、システムの堅牢性をさらに強化していく方針だ。
今後の展望としては、福岡市での実証結果を基盤に、他都市での実証実施に向けた協定締結の協議も活発に進められている。システムが全国的に普及すれば、日本の水道インフラ全体の維持管理体制が大きく向上し、各地の水道事業者が抱える老朽化問題への効果的な対応が可能となるだろう。これは、特定の地域だけでなく、日本全国の公共インフラの持続可能性を確保する上で極めて重要なステップとなる。

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Q5: このシステムが普及することで、水道事業および公共インフラ全体にどのようなメリットがもたらされるか?
水道管腐食度推定システムの全国的な普及は、水道事業に多岐にわたるメリットをもたらす。まず、最も直接的な効果として、維持管理コストの大幅な削減が挙げられる。掘削調査の減少は、直接的な工事費、交通規制費、復旧費用の削減に繋がり、これは水道事業者の財政健全化に大きく貢献する。
さらに、予防保全型の維持管理への移行は、突発的な漏水事故のリスクを劇的に低減させる。漏水事故は、水道水の供給停止だけでなく、道路の陥没、交通渋滞、復旧作業に伴う緊急出動など、社会に多大な影響とコストをもたらす。このシステムにより、事前に劣化箇所を特定し、計画的に修繕・更新を行うことで、こうした社会的コストを未然に防ぎ、市民生活への影響を最小限に抑えることが可能となる。
公共インフラ全体を見渡せば、本システムは日本の高度経済成長期に整備された膨大なインフラの老朽化問題に対し、効率的かつ持続可能な解決策を提供する。限られた財源と人材の中で、効果的にインフラを維持管理していくための強力なツールとなるだろう。官民連携によるこのような技術開発と実証は、他の公共インフラ分野(ガス管、電線、通信ケーブルなど)における維持管理技術の革新にも波及効果をもたらす可能性を秘めている。結果として、全国の住民が享受する水道水の安定供給という、最も基本的な公共サービス基盤の強化に繋がる。
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まとめ
「水道管腐食度推定システム」は、水道管の維持管理における大きな転換点となる技術である。非破壊測定により掘削作業の負担を軽減し、予防保全を実現することで、建設現場の作業効率向上とコスト削減に貢献する。福岡市での市街地実証を通じて信頼性を高め、全国への普及を目指すこのシステムは、日本の公共インフラ維持に新たな可能性を提示している。
