日本空調衛生工事業協会(日空衛)は、建設業界が直面する課題に対応するため、企業会員92社を対象とした初の実態調査を開始すると発表した。この調査は、2024年度に策定された新中期ビジョン「日空衛2025」の一環として位置づけられ、会員企業の活動支援体制強化を目指すものである。調査結果は2025年度内に取りまとめられる予定で、経営事項審査項目の詳細な分析、内勤者の働き方改革の進捗状況、そしてAIを含むICTの活用実態などが重点的に調べられる。収集されたデータは、会員企業への具体的な支援策の検討や、行政・元請け団体への政策提言を行う際の客観的な基礎資料として活用される。また、日空衛は働き方改革の推進にも力を入れており、日本電設工業協会と共同で元請け団体への要請を継続する方針を固めている。
さらに、複数の設備工事業団体と連携し、建設技能人材機構に対して特定技能評価試験に関する要望も行うことが決定された。これらの動きは、業界全体の課題解決に向けた日空衛の強い意志を示すものといえる。
Q1. なぜ今、日空衛は初の実態調査に踏み切ったのか?
今回、日空衛が92社の企業会員を対象に初の実態調査を実施する背景には、建設業界を取り巻く環境の急激な変化と、それに伴う課題の深刻化がある。その目的は大きく分けて二つに集約される。
第一に、会員企業への具体的な支援策を策定するためである。各社がどのような経営課題を抱え、どのような強みを持っているのかを客観的なデータに基づいて把握する必要がある。特に、経営事項審査の項目をより深く掘り下げて分析することで、個々の企業の状況に応じた、より実効性の高い支援メニューを開発することが可能になる。これは、各企業が持続的に成長するための基盤を強化することに直結する。
第二に、行政や元請け団体への要望活動における説得力を高めるためである。業界が抱える構造的な問題を解決するには、個社の努力だけでは限界があり、業界全体として声を上げ、制度や慣行の改善を働きかけていくことが不可欠だ。この実態調査によって得られるデータは、そうした要望書を作成する際の客観的で強力な根拠となり、政策提言の実現可能性を高める役割を担う。
これらの取り組みはすべて、2024年度に策定された新中期ビジョン**「日空衛2025」**に掲げられた「会員企業の活動支援体制の強化」という目標を具現化するための重要な一歩である。藤澤一郎会長が「新たな中期ビジョンの実現に向けて調査を実施する」と力強く述べたように、この調査は単なるデータ収集にとどまらず、業界の変革を主導していくという日空衛の強い決意の表れなのである。
Q2. 調査項目から見える、建設業界が直面する現代的課題とは?
今回の実態調査で特に重点が置かれている項目は、「経営事項審査項目の深掘り」「内勤者の働き方改革の取り組み状況」「AIを含むICTの活用状況」の三つである。これらの項目は、現在の建設業界が直面している喫緊の課題を明確に映し出している。
まず、**「経営事項審査項目の深掘り」**は、企業の経営体質そのものへの問いかけである。単に評点を上げるための対策ではなく、財務の健全性、技術力、社会性といった企業経営の根幹をデータに基づいて見つめ直し、持続可能な経営基盤をいかに構築するかという課題に直結する。
次に、**「内勤者の働き方改革の取り組み状況」**という項目は、働き方改革が現場だけでなく、バックオフィスを含む企業全体の課題であることを示している。建設業界の働き方改革は、これまで現場の長時間労働是正に焦点が当たりがちであった。しかし、設計、積算、経理、総務といった内勤部門の業務効率化なくして、企業全体の生産性向上はあり得ない。この調査は、その実態を明らかにし、業界全体の労働環境改善に向けた新たな視点を提供するものである。
そして最も現代的な課題を象徴するのが、**「AIを含むICTの活用状況」**である。人手不足の深刻化や生産性向上の要求が高まる中、AIやICTの活用はもはや選択肢ではなく、企業の競争力を左右する必須の経営戦略となっている。どの程度の企業が、どのような技術を、いかに業務に取り入れているのかを把握することは、業界全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の現在地を知り、今後の戦略を立てる上で不可欠な情報となる。これらの調査項目は、伝統的な産業である建設業が、いかにして現代的な経営課題に適応し、変革を遂げようとしているかの証左といえる。

Q3. 日空衛が進める「働き方改革」の要請活動の重要性とは?
日空衛が日本電設工業協会と共同で、三度目となる元請け団体への働き方改革に関する要請を予定していることは、極めて重要な意味を持つ。この継続的な行動は、建設業界の構造的な課題解決に向けた粘り強い姿勢を示すものである。
建設現場における働き方改革、特に時間外労働の上限規制(2024年問題)への対応は、下請け企業の努力だけでは達成が困難である。工期の設定、工程管理、現場の安全管理など、プロジェクト全体の主導権は元請け団体が握っている場合が多く、その協力なくして実効性のある改革は進まない。藤澤会長が**「粘り強く、繰り返し要請をしていきたい」**と述べているように、一度や二度の要請で長年の業界慣行がすぐに変わるわけではない。だからこそ、継続的に、そして複数の業界団体が連携して声を上げ続けることに大きな意義がある。
この共同要請は、単に労働時間の短縮を求めるだけではない。適正な工期の設定、週休2日の確保、最新技術導入による生産性向上への協力など、建設現場で働くすべての人々の労働環境を抜本的に改善するための包括的な取り組みを促すものである。このような地道な活動が、業界全体の意識を変革し、若者や多様な人材にとって魅力的な職場環境を創出する礎となる。企業経営者にとっては、自社の取り組みを後押しする業界全体の大きな流れと捉え、この機運を自社の改革に活かしていくことが求められる。

まとめ
日本空調衛生工事業協会が主導する初の実態調査と継続的な働き方改革の要請は、建設業界が直面する構造的課題に正面から向き合い、変革を促すための重要な取り組みである。調査によって得られる客観的なデータは、各企業の経営戦略や業界全体の政策提言に活かされ、ICT活用や労働環境の改善といった喫緊の課題解決を加速させるだろう。企業経営者は、これらの業界全体の動きを自社の経営改善の好機と捉え、積極的に情報を収集し、自社の変革へと繋げていく姿勢が不可欠である。
