1. 現場の生産性を劇的に向上させる新技術の適用
大林組は、日本ファブテック、R&C、日本カーボンと共同で、シート積層工法の新しい工法である「ワンバインドクロス」を開発し、このたび、東北自動車道の竜ヶ森トンネル補強工事に初めて適用しました。
この技術は、高所のトンネル内部補強工事における作業時間を大幅に短縮し、工程管理を簡素化することを目的としています。
従来の工法が炭素繊維シートを複数回に分けて貼付・硬化させる必要があったのに対し、「ワンバインドクロス」は、2層分の炭素繊維シートを1回のエポキシ樹脂塗布で同時に積層可能としました。
これにより、補強工法全体の工期を約20%削減する効果が見込まれ、従来の2層貼付に必要な工程数(11工程)を8工程にまで短縮することに成功しました。
さらに、大林組は、この新工法をトラック搭載型システム「フラップリフトR」と併用することで、現場での施工効率を従来の約2倍に高めることを達成しています。
この革新的な技術は、老朽化が進むインフラの維持管理において、現場の生産性向上とコスト最適化に大きく貢献する画期的な取り組みです。

※画像はBuildApp Newsさまからお借りしています。
2. なぜ今、シート積層工法の革新が求められているのか?
・インフラ老朽化と切迫する改修の必要性
わが国の社会インフラは建設から相当な年月が経過し、老朽化が深刻な課題となっています。
特にトンネルをはじめとするコンクリート構造物は、塩害やアルカリ骨材反応などの影響でひび割れや剥離が発生し、性能が低下しています。この劣化は進行性で、早期の補修・補強が欠かせません。
例えば、トンネルに関しては、2040年には建設後50年を超過する構造物が多数存在する見通しであり、今後、リニューアルやメンテナンスの需要は爆発的に増加すると予測されています。
現場の皆様が担う補強工事の重要性は高まる一方ですが、従来の工法では、限られた時間内での作業効率に限界がありました。
・従来の補強工法が抱えていた課題
トンネル補強工事などで用いられる炭素繊維シート積層工法は、コンクリート表面に高強度なシートをエポキシ樹脂で貼付し、構造物の耐荷力や耐久性を向上させる手法です。特に劣化の度合いによっては、複数層のシートを重ねて貼る必要があります。
従来の工法では、シートを2層貼る場合、まず1層目を貼った後に樹脂を塗布し、その硬化を待ってから2層目を貼る必要がありました。これは、1層ごとの積層と樹脂の硬化待機時間が必要となるため、作業の工期が長期化し、工程管理が複雑になる要因となっていました。
また、トンネル工事では高所作業も多く、作業時間の長期化は現場の負担増や安全管理上の難しさも伴います。
こうした背景から、工期を短縮し、現場の生産性を向上させる新しい技術の開発が急務となっていたのです。
3. 「ワンバインドクロス」は現場で何を変えるのか?
・1回で2層貼付を可能にする技術の構造
「ワンバインドクロス」は、この従来の積層工法の課題を根本的に解決するために開発されました。この技術の核となるのは、2層の炭素繊維シートをあらかじめ一体化させた特殊なシートを用いる点です。
従来の工法で使用されるシートが1層あたり200g/m2の目付量であるのに対し、「ワンバインドクロス」で採用されるシートも、2層がそれぞれ200g/m2の目付量を持ちます。
この2層のシートは特殊な手法で重ね合わせられていますが、1回の樹脂塗布で2層を同時にコンクリート表面に貼付することが可能です。
さらに、この新工法には、エポキシ樹脂がシート間に浸透しやすくなるように工夫が施されており、樹脂の硬化遅延を抑制し、シートを確実に定着させる仕組みも内包されています。
これにより、1層ごとの貼付・硬化のプロセスが不要となり、従来の2層添付に要していた作業工程を大幅に削減することが可能となりました。
・圧倒的な工期短縮効果と生産性向上
この「ワンバインドクロス」の導入は、現場における作業効率に劇的な変化をもたらします。
具体的な数字として、トンネル補強工法におけるシートの貼付作業において、従来の2回必要であった貼付工程が1回に集約されます。結果として、工期全体に関わる工程数は、従来の11工程から8工程へと削減されます。
さらに、シートの積層工法全体において、工期を約20%短縮する効果が見込まれています。これは、特に交通規制が必要な区間や、厳しい工期が設定されている公共工事において、極めて大きなメリットといえます。
実際に大林組が実施した東北自動車道 竜ヶ森トンネル補強工事の事例では、「ワンバインドクロス」に加え、トラックに搭載された移動式作業台車システム「フラップリフトR」と併用することで、施工効率が従来の約2倍に向上したことが確認されています。
この相乗効果は、現場での作業負荷を軽減し、生産性を飛躍的に高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)の好例といえます。
・作業環境の安全性向上への貢献
高所や閉鎖空間での作業が多いトンネル補強において、作業時間が長引くことは、作業員の疲労蓄積や事故リスクの増大に直結します。
「ワンバインドクロス」は、シートの貼付回数を減らし、作業時間を短縮することで、現場の作業環境の安全性向上にも貢献します。
工程数が減ることは、作業員の負担軽減と、高品質な施工を安定して提供するための重要な要素となります。これにより、特に夜間や交通規制を伴う現場での作業が、より計画的に、かつ迅速に遂行可能となります。

※画像はイメージです。
4. 今後の適用範囲と期待される役割
・トンネル補強以外への展開
「ワンバインドクロス」は、その高い生産性と信頼性から、トンネル補強工事以外にも広範な適用が期待されています。
現時点では、橋梁の変状補修や補強、あるいは建築物の耐震補強など、コンクリート構造物の耐久性向上を目的とした様々な工事への適用拡大が検討されています。
日本のインフラが抱える「2025年問題」や、それ以降の老朽化対策の波を乗り越えるためにも、この種の工期短縮と高品質化を両立する技術の重要性は高まる一方です。
大林組をはじめとする開発各社は、今後もこの「ワンバインドクロス」を積極的に展開し、わが国のインフラ長寿命化と効率的なメンテナンス体制の構築に貢献していく方針を示しています。
まとめ
「ワンバインドクロス」は、従来のシート積層工法が抱えていた作業時間の長さと工程の複雑さを克服し、現場の生産性を大幅に向上させる革新的なソリューションを提供します。
特に、インフラ老朽化対策が急務となるなかで、この技術は工期を最大20%短縮し、作業効率を約2倍にする可能性を秘めています。
現場の皆様にとって、作業の簡素化と安全性の向上、そして公共工事のコスト最適化に直結するこの新工法は、今後の施工体制を構築するうえで不可欠な要素となるでしょう。
