前田建設工業株式会社は、ダム建設現場におけるコンクリート打設後の重要工程である「グリーンカット」作業を自動化する施工マシンの開発に成功した。
同社は2025年8月に岐阜県郡上市で施工予定の「内ケ谷ダム本体工事」において、この自動施工マシンの試行運用を実施し、現場の通信環境のみで問題なく自動施工が可能であることを実証した。
この技術革新により、従来の人力や汎用機械に頼った工法と比較して、年間の施工可能日数が約1.3倍に増加するという顕著な成果が得られている。
さらに、このシステムは、建設業界で喫緊の課題となっている「週休2日制」の定着にも大きく寄与するものである。
従来の工程では困難であった現場休工日前日のコンクリート打設が可能となり、休日との作業調整という長年の課題を解決する糸口が見いだされたといえる。
本稿では、この画期的な自動化技術の詳細と、それが建設現場にもたらす変革について、よくある疑問に答える形式で解説を加える。
Q1:そもそも「グリーンカット」とはどのような作業であり、何が課題だったのか?
ダム建設におけるコンクリート工事では、品質を保つために極めて繊細かつ重労働な作業が求められる。グリーンカットとは、コンクリートを打設した際に、その表面にセメントや骨材の微粒子などが浮き上がって形成される「レイタンス層」を除去する作業のことである。
この層を放置すれば、次に打設するコンクリートとの一体化が阻害され、構造物の強度や水密性に悪影響を及ぼすため、確実な処理が不可欠となる。
従来の手法では、コンクリート打設の翌日に、広大な打設面のレイタンスを人力によるブラシ掛けや、高圧水を用いたウォータージェットなどで削り取る必要があった。これは作業員にとって身体的負担が大きいだけでなく、工程管理上の大きな制約となっていた。
特に、建設業界全体で働き方改革が進み、週休2日制の導入が求められるなか、このグリーンカットのタイミングがボトルネックとなっていたのである。
具体的には、打設の翌日に処理作業を行なわなければならないという特性上、土日を休工とする場合、金曜日にコンクリートを打設することができず、週の稼働日が制限されてしまうという問題が生じていた。

自動化フロー(報道発表資料から)
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q2:今回開発された自動化システムは、どのようにして「休工日の壁」を越えたのか?
前田建設が開発した新システムは、単なる機械化にとどまらず、化学的な処理技術との併用によって工程の柔軟性を獲得している点が最大の特徴である。
具体的には、自動化技術と「打ち継ぎ目処理剤」と呼ばれる化学的処理を組み合わせることで、現場休工日の前日であっても生コンクリートの打設を可能にした。
このシステムでは、コンクリートの硬化を遅らせる「遅延剤」の散布を行なう機能を備えていると考えられる。実際に現場での試行においては、遅延剤の散布によって、休日を挟んだ場合でも打ち継ぎ面の品質に支障がないことが確認された。
つまり、金曜日に打設を行ない、適切な処理を施すことで、土日の休工を経て月曜日に作業を再開しても、必要な品質が維持されるということだ。
これにより、従来は打設を控えざるを得なかった曜日でも施工が可能となり、結果として年間の施工可能日数が従来比で1.3倍程度にまで拡大する見通しとなったのである。
Q3:自動施工マシンの技術的な仕組みと操作性はどのようになっているのか?
開発された「自動グリーンカットマシン」は、英McConnel社製の「ROBOCUT」をベースマシンとして採用している。このベースマシンに対し、前田製作所が製作した専用のアタッチメントを搭載することで、ダム工事特有の環境に適応させた。
システムの中核を担うのは、GNSS(全球測位衛星システム)やウェブカメラ、通信機器、そして制御用PCといったICT機器の組み合わせである。これらを統合することで、マシンは「自動施工モード」と「遠隔施工モード」の2種類に切り替えて運用することが可能となっている。
特筆すべきは、その操作の簡便性である。自動施工モードにおいては、事前に設定した施工ルートをタブレット端末から制御コンピューターに送信し、開始ボタンを押すだけで施工がスタートする。
複雑な重機操作を必要とせず、タブレット一つで指示が出せる点は、熟練オペレーター不足に悩む現場にとって大きな福音となるだろう。
また、現場の通信環境には無線LANを使用し、特別なインフラを構築せずとも、既存の現場環境下で自動施工に対応できることが確認されている。

自動グリーンカットマシンの外観(報道発表資料から)
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q4:自動化による品質面への懸念はないのか?
新しい技術を導入する際、最も懸念されるのは施工品質の安定性である。しかし、今回の試行結果を見る限り、その懸念は払拭されたといってよい。岐阜県内ケ谷ダムでの実証実験において、自動施工部および遅延剤散布部の双方で、良好な打ち継ぎ面の品質が確保できていることが確認された。
機械による自動施工は、人間のように疲労による精度のばらつきが生じないため、広範囲にわたって均一な処理が可能となるメリットがある。
さらに、ウェブカメラを通じた監視も行なわれるため、施工状況は常に可視化されている。
前田建設は今後、グリーンカットの実作業だけでなく、その後の品質判定に至る一連の工程すべてを自動で行なうシステムの開発を目指している。
これが実現すれば、施工から検査までがシームレスに自動化され、人為的ミスの介在する余地はさらに極小化されることになるだろう。
まとめ
前田建設が開発したグリーンカット自動施工マシンは、ダム建設現場における「働き方改革」と「生産性向上」という、一見相反する課題を同時に解決する画期的なソリューションである。
GNSSやタブレット制御といった最新のICT技術を駆使し、作業の無人化・省人化を実現しただけでなく、化学的処理との併用によって施工工程の制約を取り払った点は高く評価されるべきである。
年間施工可能日数が1.3倍になるという事実は、工期短縮やコスト削減に直結する強力な武器となる。現在は試行段階を経て実用化への道を歩んでいるが、将来的には品質判定まで含めた完全自動化が視野に入っている。
建設業界が直面する労働力不足や長時間労働の是正に対し、技術開発がいかに貢献できるかを示した好例といえるだろう。
このようなDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みが、今後の中小規模の現場にも波及し、業界全体の底上げにつながることが期待される。
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