和歌山県が進めてきた主要地方道・海南金屋線の改良事業において、最大の難所とされた鏡石トンネルを含むバイパス区間が18日、待望の供用開始を迎えた。
海南市と有田川町を結ぶこの動脈は、阪和自動車道へのアクセスを担う重要路線でありながら、現道は道幅が狭く離合困難な状況が続いていた。
2011年の事業着手以来、総事業費約200億円を投じて整備されたこのバイパスは、延長約4.8キロメートルに及び、その核心部となる鏡石トンネル(延長2567メートル、幅員7メートル)の施工は、森本組・海邊組・益田工業の特定建設工事共同企業体(JV)が担当した。
施工にあたっては、山岳トンネルの標準工法であるNATM(ナトム)を採用しつつ、地山の状況に応じて長尺鋼管フォアパイリングなどの高度な補助工法を駆使し、約6年にわたる工期を経て完成に至った。
本稿では、この大規模プロジェクトを題材に、建設業の経営者や現場監督が学ぶべき技術的判断や組織運営のヒントを、実務的な視点から紐解いていく。
Q1:採用された「NATM」と「補助工法」の組み合わせから学べる技術的教訓は何か?
今回の工事では、NATM(New Austrian Tunneling Method)を基本としつつ、地山状況を考慮して複数の補助工法が採用された。
NATMは、地山自体がもつ支保能力をロックボルトや吹き付けコンクリートで最大限に引き出す工法だが、地質が脆弱な場合や湧水が多い場所では、切羽(掘削面)の安定確保が課題となる。
特筆すべきは、「長尺鋼管フォアパイリング(165メートル)」や「小口径長尺鋼管フォアパイリング(117メートル)」、さらに「注入式フォアポーリング(6メートル)」といった多種多様な補助工法を使い分けている点だ。
これは、現場の地質変化がいかに激しく、難易度が高かったかを示唆している。
長尺の先受け工法は、切羽前方の大規模な崩落防止に効果を発揮するが、施工コストと時間は増大する。一方で、短尺のフォアポーリングは機動性に優れる。
現場監督や技術者としての学びは、「地山の挙動を正確に予測し、経済性と安全性のバランスを見極めて最適な工法を選定する判断力」にある。
画一的な施工ではなく、地質に応じた柔軟な工法変更(設計変更)の提案能力こそが、現代の土木技術者に求められるコアスキルであるといえるだろう。こうした高度な判断の積み重ねが、難所攻略の鍵となったことは想像に難くない。

式典後に行なわれた鏡石トンネルの通り初め
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q2:地方の建設会社がJV(共同企業体)として参画する経営的メリットは?
本プロジェクトは「森本組・海邊組・益田工業JV」によって施工された。建設業界においてJV制度は一般的だが、特に中小規模の建設会社にとって、その意義は単なる受注機会の拡大にとどまらない。
第一に、「技術の移転と高度化」である。トンネル工事のような特殊技術を要する現場において、実績豊富な準大手・大手ゼネコンとタッグを組むことは、自社社員にとってまたとないOJT(職場内訓練)の機会となる。
最新の施工管理手法、安全管理の基準、ICT建機の運用ノウハウなどを直接吸収できる点は、人材育成の観点から極めて価値が高い。
第二に、「経営基盤の強化と信用力の向上」だ。200億円規模の公共工事に名を連ね、無事故で完遂した実績は、企業の対外的な信用力を大きく押し上げる。
これは、将来的な公共工事の入札参加資格審査(経審)においても有利に働く要素となり得る。
経営者としては、JV組成を単なる労働力提供の場と捉えず、自社の技術力底上げとブランディングの好機として戦略的に活用する視点をもつべきであろう。
Q3:総事業費200億円という巨額投資は、地域経営にどう還元されるのか?
「道一本に200億円」という数字だけを見れば、コスト議論が巻き起こることもあるかもしれない。しかし、建設業のプロフェッショナルとしては、インフラ投資がもたらす「見えない利益」を正しく言語化し、発信する能力も必要だ。
今回のバイパス整備の最大の成果は、宮崎知事が述べた「防災機能を強化し命をつなぐ道」という点に集約される。
紀伊半島は台風や土砂災害のリスクが高い地域であり、唯一の生活道路が寸断されれば集落が孤立する恐れがある。強靭な代替路の確保は、地域住民の生命財産を守るための「保険」であり、その価値は金額換算できないほど大きい。
また、走行時間の短縮は、物流コストの削減や観光客の誘致につながり、地域経済の活性化を下支えする。建設業が担うのは、単にコンクリートの構造物を作ることではなく、地域の持続可能性(サステナビリティ)を物理的に担保することだ。
この視点をもつことは、自社の仕事に対する誇りを醸成し、従業員のモチベーション向上にも寄与する重要な経営マインドである。

記念式典で鏡開きを行なう宮崎泉知事(右から2人目)ら
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q4:長期プロジェクトにおける工程管理とリスクヘッジの要点は?
本事業は2011年のバイパス整備開始から約14年、トンネル工事単体でも2019年から約6年の歳月を要している。このような長期プロジェクトにおいては、当初の計画通りに事が進むことは稀である。
資材価格の高騰、労働力不足の深刻化、予期せぬ地質トラブルなど、外部環境の変化にさらされ続けるなかで工期を守るためには、強力なプロジェクトマネジメント能力が不可欠だ。
特に今回の現場では、複数の補助工法を駆使して地山の変化に対応しており、これはリスク発生時の迅速な意思決定プロセスが機能していた証左でもある。
また、地域住民との合意形成や、関係機関との調整も長期化するほど複雑になる。
長期的な視点に立ったステークホルダー管理と、変化に即応できる柔軟な工程計画の策定は、経営層および現場所長クラスに求められる必須のコンピテンシーである。
今回の無事開通は、こうしたマネジメント能力が現場レベルで遺憾なく発揮された結果といえるだろう。
まとめ
鏡石トンネルの開通は、NATM工法と補助工法を組み合わせた高度な技術力と、JV体制による組織的な施工管理が結実した成果である。
建設業に従事する我々にとって、この事例は単なるニュースではなく、技術選定の重要性や組織運営の在り方を再確認するための貴重な教材だ。
難工事を乗り越え、地域に安心と繁栄をもたらすインフラを構築することこそ、建設業の本質的な価値である。この誇りを胸に、自社の技術研鑽と人材育成に邁進することが、業界全体の未来を切り拓く原動力となるだろう。
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