復興工事の遅れを防ぐ鍵―「デジタル遺跡踏査」が注目される理由
能登半島地震から2年が経過し、現地では復旧・復興事業が急ピッチで進められているが、工事の進捗を阻む要因の一つとして「埋蔵文化財(遺跡)」の存在が課題となっている。工事中に予期せぬ文化財が発見されると発掘調査が必要となり、大幅な工程の見直しを余儀なくされる可能性があるからだ。
こうした事態を未然に防ぎ、迅速な復興と文化財保護を両立させる手段として、日本文化財保護協会が普及に注力しているのが「デジタル遺跡踏査」である。これは、GIS(地理情報システム)や航空レーザー測量データを活用し、地表に露出した遺跡の可能性を事前に予測する手法だ。
本稿では、石川県で実施された研修の内容や技術的背景をもとに、建設現場におけるこの新たなリスク管理手法について解説する。

石川県志賀町の古墳群でアプリなどを使った測量実習をした
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q1:なぜ今、建設現場で「デジタル遺跡踏査」が重要視されるのか?
最大の理由は、災害復旧における「スピード」と「手戻り防止」の両立にある。被災地での復興は一刻を争うものであり、「復興は一秒も遅らせてはならない」という現場の強い要請がある。しかし一方で、地域固有の歴史遺産である文化財の保護をおろそかにすることもできない。
従来、工事計画の段階では市町村が作成する「遺跡地図」を参照して周知の埋蔵文化財包蔵地を確認してきた。だが、この地図の作成には人間が実際に現地を歩いて調査する必要があり、人手不足や安全確保の問題から調査が不十分な地域も存在するのが実情だ。もし工事着手後に未確認の遺跡が見つかれば工事はストップし、現場の採算や要員計画に甚大な影響を及ぼす。
そうしたリスクを工事前に極小化するための手段として、デジタル技術による事前把握が不可欠となっているのである。
Q2:具体的にどのような技術を用いて調査を行なうのか?
「デジタル遺跡踏査」の中核を成すのは、国や県が公開しているGIS(地理情報システム)データの高度な活用である。具体的には、航空レーザー測量によって取得された点群データや、既存の遺跡地図など、複数の異なるデータをデジタル上で重ね合わせる手法をとる。これにより、肉眼では判別しにくい地表の微細な「形状」や「起伏」といった地形の特徴を可視化し、古墳などの未発見遺跡が存在する可能性のある地点を絞り込むことが可能となる。
地下深くに完全に埋没している遺跡までは把握できないものの、地表に痕跡が表れる種類の遺跡や文化財であれば、その位置や規模について事前にかなりの精度で見当を付けることができる。現場監督や施工管理者は、このデータを元に「ここを掘ると遺跡が出るかもしれない」というリスク箇所を事前に把握できるため、調査に必要な時間やコストを大幅に抑制することが期待できる。
Q3:現場導入に向けたハードルは高いのか?
高度な解析技術と聞くと導入が難しい印象を受けるが、現場レベルで活用できるような手順の整理が進められている。この手法の整理に取り組んだ国立文化財機構奈良文化財研究所の高田祐一氏は、これまで遺跡調査分野で十分に活用されてこなかったGISデータに着目し、現場で応用可能な手順を構築した。
実際に、石川県では自治体職員や企業関係者を対象とした技術研修が開催されており、約40人が参加して実務を想定した訓練が行なわれている。研修では、座学でのGISデータ作成実習に加え、スマートフォンの3Dスキャナーアプリなどを使用した現地実習も実施された。参加者がスマホやタブレットをかざして古墳の周囲を歩き、測量などの実務を学ぶ姿が見られたことから、特別な巨大機材を搬入せずとも、身近なデジタルデバイスを活用して現場での判断材料を増やせる点がこの手法の大きなメリットといえる。

座学でGISデータ作成を学んだ
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q4:この技術は全国どこの現場でもすぐに使えるのか?
基本的には全国での応用が期待される技術であるが、現時点では地域ごとのデータ整備状況に課題が残る。デジタル遺跡踏査を進めるうえでは、地域ごとに公開されているデータの形式や精度が大きく異なる点がネックとなっているからだ。高田氏も指摘するように、地形や遺跡データが高精度なGISデータとして整理・公開されることが、調査の質や精度の向上、ひいては建設業務の効率化に直結する。
しかし、実際にこの手法を活用して遺跡地図の精度を向上させるかどうかは、最終的には各自治体の判断に委ねられているのが現状だ。建設事業者としては、施工予定地の自治体がどのようなデータを公開しているかを確認し、活用可能なオープンデータがある場合は積極的に取り入れる姿勢が求められる。復興工事が本格化する前に、現場レベルで遺跡の有無をある程度判断できる体制を整えておくことは、工事停止のリスクを下げるための重要な経営判断の一つとなるだろう。
Q5:建設DXとしての側面と今後の展望は?
この取り組みは、単なる文化財調査の手法にとどまらず、建設業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の一環としても捉えることができる。従来は熟練の調査員が山林を歩き回って行なっていた踏査を、航空測量データとスマホアプリで代替・補完するという点は、まさに生産性向上と安全性確保に直結する業務改革である。
特に中小建設業においては、人手不足が深刻化するなかで、こうしたデータ活用による業務効率化は避けて通れない課題だ。「事前の把握が重要になる」という指摘の通り、着工前のリスクアセスメントにデジタル技術を組み込むことは、不測の事態による赤字を防ぐ防波堤となる。日本文化財保護協会の鵜飼専務理事も、被災地の遺跡対応で工事が止まるリスクを下げる一つの選択肢として、この技術が広く知られることに期待を寄せている。
まとめ
能登半島地震の復旧現場で導入が進む「デジタル遺跡踏査」は、建設工事における「埋蔵文化財リスク」を低減させるための有効なツールである。GISデータや3Dスキャンアプリを活用することで、従来の人力調査では限界があった広範囲の事前把握が可能となり、結果として工事の手戻りや遅延を防ぐことにつながる。
データの整備状況には地域差があるものの、スマホ一つで高度な測量・調査が可能になるこの技術は、人手不足に悩む建設業界にとって大きな武器となり得るだろう。現場のIT化を進める第一歩として、こうした公的なデータ活用の事例を知っておくことは極めて有益だ。
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