初期設計から人流を可視化―清水建設の人流解析DXツール「Shimz DDE Pedex+」
清水建設は、スタジアムやアリーナといった大規模集客施設の初期設計段階において、施設完成後の人の流れ(人流)を予測し可視化できる新たなデジタルエンジニアリングツール「Shimz DDE Pedex+(シミズ・ディーディーイー・ペデックスプラス)」を導入した。本ツールは、設計者が日常業務で使用している3Dモデルを活用し、歩行者の属性まで踏まえた高度な人流解析を行なうものである。
同社は、設計・施工を手掛ける「新秋田県立体育館(秋田市)」の建設・運営事業に本ツールを初適用した。これにより、工事関係者間での協議が円滑化され、合意形成に要する時間が大幅に短縮できる効果が確認されている。
システムは、最適な人流計画案を選択するための「エリア・モジュール・モデル(AMM)」と、歩行者の動きをリアルに再現・可視化する「マルチ・エージェント・システム(MAS)」によって構成されている。静的な計画案の策定から、動的なシミュレーションによる検証までを一貫して行なえる点が特徴である。
建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、設計品質の向上と業務効率化を両立させる取り組みとして注目される。

人流の可視化イメージ(報道発表資料から)
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q.今回導入された「Shimz DDE Pedex+」とは、具体的にどのようなシステムなのか?
本システムは、大規模施設の設計における複雑な人流解析を、より精緻かつ効率的に行なうために開発されたツールである。最大の特徴は、二つの異なる解析モデルを組み合わせている点にある。
まず、「エリア・モジュール・モデル(AMM)」と呼ばれる機能が、動線計画などの数値解析を行ない、静的な視点から最適な人流計画案を導き出す。これは、複数のプランの中から最も効率的な動線配置を選定する際に威力を発揮する。
次に、AMMで選定された計画案を基に、「マルチ・エージェント・システム(MAS)」が稼働する。MASは、施設内外における利用者の移動行動を動的かつリアルに可視化するシミュレーション機能である。ここでは、単に人が移動する様子を表示するだけでなく、移動者一人一人の詳細な属性設定が可能となっている。
具体的には、性別や大人・子供といった属性分けに加え、それぞれの歩行速度、他人との距離感(パーソナルスペース)、移動経路などが細かく設定される。さらに、歩行者同士の衝突回避行動や、前の人に続く追従行動、混雑密度に応じた歩行速度の変化まで反映されるため、数万人規模の群衆の動きを極めて現実に近い形で再現できるのである。
これにより、時刻歴の位置情報を基にした動的な群衆挙動の可視化が実現した。
Q.設計・施工の現場において、このツールはどのようなメリットをもたらすのか?
建設プロジェクト、特に大規模な公共工事や集客施設の建設においては、発注者、設計者、施工者、そして運営主体など、多岐にわたる関係者間での合意形成が大きな課題となる。従来、図面や静止画のパースだけでは、完成後の混雑状況や人の動きを具体的に共有することが難しく、認識の齟齬から手戻りが発生することも少なくなかった。
今回開発されたツールの導入により、専用ビューワを用いて混雑度をヒートマップ化したり、設計変更の前後を2画面で比較表示したりすることが可能となった。これにより、関係者は視覚的かつ直感的に計画案の良し悪しを判断できるようになり、協議がスムーズに進行する。結果として、速やかな合意形成が可能となり、プロジェクト全体のスピードアップに寄与する。
また、設計検討と人流解析を同時進行で行なえるため、検討時間の短縮を図りながら設計品質を向上させるという、相反する課題を同時に解決できる点も大きなメリットである。設計段階で運営時の課題をあらかじめ潰しておくフロントローディングの実践にもつながる。
Q.新秋田県立体育館のプロジェクトでは、実際にどのように活用されているのか?
新秋田県立体育館の建設・運営事業は、清水建設を代表企業とする「秋田アリーナPFIパートナーズ」が主体となって推進しているPFI事業である。現在は2028年9月の供用開始に向けた設計作業の真っ只中にある。
本プロジェクトにおいて、清水建設は入札段階から本ツールを活用した。具体的には、AMMを用いて最適な人流計画を提案し、その根拠を数値で示した。そして、受注後の設計業務においては、MASを活用してAMMで求めた人流計画を具体的に可視化し、詳細な設計詰めを行なっている。
このように、提案段階から実設計段階まで一貫してデータを活用することで、発注者に対する説明責任を果たしつつ、利用者の快適性や安全性を高める設計を実現しているのである。PFI事業のように、建設だけでなく運営までを見据えた長期的な視点が求められるプロジェクトにおいて、こうしたシミュレーション技術は不可欠な要素となりつつある。

※画像はイメージです。
Q.建設時だけでなく、完成後の運営フェーズでも役立つのか?
本ツールの活用範囲は、設計・建設段階にとどまらない。完成後の運営段階においても、そのシミュレーション結果は貴重なデータとして活用できる。例えば、イベント開催時における誘導員の最適な配置計画や、来場者をスムーズに誘導するためのサイン(案内表示)計画の立案などに役立てることができる。
事前にシミュレーションを行なうことで、どこに人が滞留しやすいか、どの通路がボトルネックになるかといったリスクを予測できるため、効果的な混雑緩和策を講じることが可能となる。これは、施設運営の効率化だけでなく、来場者の満足度向上や事故防止にも直結する重要な要素である。建物を作って終わりではなく、その後の運用まで見据えたソリューションを提供できる点は、建設会社の付加価値向上にもつながるだろう。
Q.今後の機能拡張や展開についてはどのように考えられているか?
清水建設では、このデジタルエンジニアリングツールをさらに進化させる方針を打ち出している。具体的には、火災時を想定した避難シミュレーション機能を開発し、既存のシステムに付加する計画である。
大規模集客施設において、災害時の安全確保は最優先事項の一つである。通常時の人流だけでなく、パニック時や緊急避難時の群衆挙動を正確に予測できれば、より安全性の高い避難計画や防災設備の配置が可能となる。平常時の快適性と非常時の安全性を、一つのデジタルプラットフォーム上で検証できるようになれば、施設のレジリエンス(強靭性)は飛躍的に向上するはずだ。
こうした技術開発は、建設業が単なる「箱モノ」を作る産業から、社会の安全・安心をエンジニアリングする産業へと進化していることを象徴しているといえるだろう。
まとめ
清水建設による「Shimz DDE Pedex+」の導入は、建設DXが現場の実務レベルで着実に進展していることを示している。3Dモデルと高度なシミュレーション技術の融合は、設計品質の向上や合意形成の迅速化といった業務効率化に寄与するだけでなく、施設運営や防災計画といった付加価値の創出にもつながっている。
中小規模の現場においても、こうした「可視化」によるコミュニケーションの改善や、事前検証による手戻り防止の考え方は、生産性向上に向けた重要なヒントとなるだろう。デジタル技術をいかに使いこなし、現場の課題解決に結びつけるか。その手腕が問われる時代が到来しているといえる。
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