MR活用の長大橋点検システム「BIX-eye」開発
本州四国高速道路会社は、MR(複合現実)技術を活用した新たな長大橋点検システム「BIX-eye(ビックス・アイ)」を開発し、実用化に向けた動きを加速させている。同社は4月から西瀬戸自動車道に架かる大島大橋において、このシステムを本格導入することを目指し、現在は3次元モデルの最終調整段階にある。
本システムは、タブレット端末などのデバイス上にBIM/CIMモデルを投影し、現実の橋梁と3次元モデルを重ね合わせることで、変状箇所の確認や記録を効率的に行なうものである。導入の主たる目的は、点検業務の大幅な効率化と高度化を図ることにあるが、それにとどまらず、蓄積された点検データを将来的な維持管理業務全般に活用していく構想も描く。
位置情報の取得にはGNSS(衛星測位システム)やSLAM(自己位置推定)技術を用い、電波の届かない閉鎖空間においては2次元コードを活用するなど、現場環境に即した実用的な工夫が施されている点が特徴だ。
Q.今回開発された点検システムの具体的な仕組みと現場でのメリットは何か。
本システム「BIX-eye」の最大の特徴は、現実空間と仮想空間を融合させるMR技術の活用にある。点検員が現場でタブレット端末をかざすと、画面上にその場所のBIM/CIMモデルが表示され、実物とデジタルデータが重なり合って表示される仕組みだ。これにより、点検員は画面内の部材をタップして選択するだけで、変状の詳細な位置情報を正確に記録することが可能となる。
従来の手法では、図面と現物を見比べながら位置を特定し、野帳に記録してから事務所で調書を作成するといった手間が発生していたが、本システムではその場で変状の概要入力や過去の記録確認、情報の更新、さらには調書作成まで完結できるため、業務効率は飛躍的に向上する。また、部材情報として構造種別や変状の種別、補修履歴などがあらかじめ登録されているため、現場でのデータ参照も迅速に行なえる利点がある。

画面イメージ
※画像は建設通信新聞さまからお借りしています。
Q.橋梁内部など、GPSの電波が届かない場所での位置情報はどのように確保するのか。
長大橋の点検において課題となるのが、GNSS(衛星測位システム)の電波が届かない場所での位置特定である。本システムでは、通常時はGNSSによる位置情報取得に加え、SLAM(自己位置推定)技術を併用することで、点検員が移動しても正確な位置を保持し続けることを可能にした。
しかし、鋼箱桁の内部などは電波が遮断されるため、これらの技術だけでは不十分となる。そこで採用されたのが、2次元コードを用いた位置情報の補正技術である。具体的には、電波が入らない箇所にあらかじめ2次元コードを設置し、これをタブレット端末で読み込むことで正確な位置情報を取得する仕組みを構築した。実際、大島大橋での導入においては、箱桁内の計400カ所に2次元コードを設置し、無電波地帯でもスムーズな点検作業が行なえるよう対策を講じている。
Q.既存のBIM/CIMモデルを転用するにあたり、どのような技術的課題があったのか。
開発を担当した技術者によると、通常の建設工事で用いられるBIM/CIMモデルをそのまま維持管理業務に転用することには困難が伴ったという。建設用のモデルは詳細度が非常に高く、データ容量が膨大であるため、タブレット端末などで軽快に扱うには不向きであった。また、オブジェクトの分類も建設工事の工程管理などに最適化されており、点検業務の視点とは異なっていた。
そのため、開発チームは維持管理業務に適した形に3次元モデルを再構築する必要に迫られた。具体的には、モデルのデータ容量を軽量化した専用の3Dモデルを作成し、部材ごとに維持管理に適したオブジェクト分類へと定義し直したのである。さらに、変状の履歴データを各部材に正確にひも付けるための属性情報を新たに付与する作業も行なわれ、システムの実用性を高めるための地道な調整が行なわれた。

点検風景
※画像は建設通信新聞さまからお借りしています。
Q.本システムの開発体制と、各企業の役割分担はどうなっているのか。
この大規模なシステム開発は、本四高速グループ単独ではなく、専門技術をもつ複数の企業が連携するコンソーシアム形式で進められた。中心となったのは本四高速のグループ会社である本四高速道路ブリッジエンジのほか、「自動点検・補修技術開発コンソーシアム」に参加するIHIインフラシステム、インフォマティクス、ミラリスタの3社である。
役割分担としては、IHIインフラシステムがBIM/CIMモデルの構築を担当し、インフォマティクスがGNSSやSLAMといった位置情報技術、および現実とデジタルを複合する「GyroEye(ジャイロ・アイ)」や高精度位置情報取得技術であるRTKの開発を担った。そしてミラリスタは、サイバー空間と現実空間を違和感なく重ね合わせるための高度な重畳機能の開発を担当している。各社が得意とする技術をもち寄ることで、複雑な現場課題を解決するシステムが実現したのである。
Q.今後の技術展開や、他の長大橋への導入計画はどうなっているのか。
本四高速では、大島大橋での運用実績を踏まえ、将来的には世界最長の吊り橋である明石海峡大橋への導入も見据えている。すでに2025年度からは、そのための3Dモデル作成に向けた検討に着手した。しかし、明石海峡大橋は複雑なトラス構造をもっており、部材数が極めて多いため、オブジェクトをどのように分類・管理するかというルール整備が大きな課題となっている。
また、トラス内部は電波が入りにくく構造も複雑であるため、位置情報をどのように維持するかについても、さらなる技術的検討が必要とされている。担当者は、導入までの難易度は高いものの、実現すれば多くの長大橋への展開が可能になるとしており、2026年度以降も継続して開発に取り組む意向を示す。また、収集した点検データを単なる記録にとどめず、劣化予測や補修計画の立案に役立てるプラットフォームの構築も目指している。
まとめ
建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、業務効率化のみならず、インフラの長寿命化や維持管理の高度化を実現する鍵となる。本四高速の取り組みは、MRや3次元モデルといった先端技術を、現場の実情に合わせてカスタマイズし実装した好事例といえる。
特に、電波の届かない閉鎖空間での位置特定技術や、維持管理用に特化したデータモデルの再構築といった現場視点の課題解決は、他の中小建設現場におけるIT活用にも多くの示唆を与えるものである。人手不足が深刻化する建設業界において、こうした技術の水平展開と定着が待たれる。
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