複合災害時代の到来:建設業が直面する新たな挑戦
近年、日本では大規模な自然災害が頻発し、単一の災害にとどまらず、複数の災害が連鎖的に発生する「複合災害」への対策が喫緊の課題となっています。日本学術会議と防災学術連携体は、2025年9月7日にオンラインシンポジウム「複合災害に立ち向かう防災の知恵-新潟と能登の経験から」を開催しました。このシンポジウムは、新潟市で開催された防災推進国民大会(ぼうさいこくたい)のセッションとして実施され、有識者らが複合災害の特徴と備え方について講演し、能登半島地震に対する国土交通省の対応状況も紹介されました。

講演では、2004年の中越地震と2024年の能登半島地震の比較から、最初の災害発生状況を的確に把握し、脆弱な地域を見極めて次の災害を防ぐ柔軟な対応の重要性が指摘されました。また、災害被害は地形により特性や拡大の時間が異なることの理解に加え、地方建設業や公務員の担い手が減少する中で、少子化によって限られた人的・技術的・経済的資源をいかに活用するか、早急な検討が求められると強調されました。さらに、中越地震と能登半島地震の共通点を踏まえ、孤立集落対策や二次災害を想定した応急復旧の工夫、そして一次災害で弱体化した中山間地への中長期的対策の不可欠性も提言されました。1964年の新潟地震、中越地震、能登半島地震の液状化被害分析からは、旧河道など同一地点で繰り返し液状化が発生する現象が明らかになっています。これらの議論は、災害列島である日本のインフラを支える建設現場にとって、防災・復旧のあり方を根本から問い直す契機となっています。
建設現場が今、取り組むべき複合災害対策:よくある質問と対策
複合災害の脅威が増す中、建設現場の皆様はどのような対策を講じるべきでしょうか。シンポジウムでの議論を踏まえ、現場の皆様から寄せられることが多い質問にお答えします。
Q1. 複合災害発生時、建設現場は初期段階で何に注力すべきですか?
複合災害発生時には、初動対応の迅速性と正確性が極めて重要です。日本応用地質学会副会長の北田奈緒子氏が指摘するように、「最初の災害発生状況を的確に把握し、脆弱な地域を見極めて次の災害を防ぐ柔軟な対応」が求められます。これは、建設現場において以下の点に注力することを意味します。
• 迅速な情報収集と共有体制の構築: 災害発生直後から、現場周辺の被害状況、道路の寸断、ライフラインの状況などを多角的に収集し、関係者間で迅速に共有する体制を平時から構築しておく必要があります。ドローンや衛星画像、SNSなどの情報を活用し、広範囲の状況を把握することも有効な手段です。
• 脆弱地域の事前把握とリスク評価: 安田進氏が旧河道で液状化が繰り返される事例を挙げたように、地形や地質、過去の災害履歴から、土砂災害や液状化、津波浸水などのリスクが高い地域を事前に把握することが重要です。ハザードマップの確認はもちろん、現場ごとの地盤調査データや構造物の脆弱性を評価し、災害発生時の影響を予測する訓練も欠かせません。
• 柔軟な対応計画の策定: 複合災害では、予測不能な事態が連続して発生する可能性が高まります。そのため、画一的なマニュアルに固執するのではなく、刻々と変化する状況に対応できる柔軟な計画が必要です。例えば、交通網が寸断された際の代替ルートの確保、資機材の迂回調達方法の検討、非常用電源や通信手段の確保などが挙げられます。
Q2. 地方建設業の人的・技術的・経済的資源を最大限に活用するにはどうすべきですか?
名城大学教授の溝口敦子氏が提起したように、地方建設業では少子化による担い手の減少が深刻化しており、限られた人的・技術的・経済的資源をいかに有効活用するかが喫緊の課題です。特に災害復旧においては、迅速かつ広範囲な対応が求められるため、以下の対策が考えられます。
• 人的資源の多角的な活用と育成:
◦ 多能工化の推進: 一人の職人が複数の作業をこなせるように育成することで、現場の柔軟性と効率性を高めます。
◦ 熟練技術の継承とデジタル化: 経験豊富なベテラン職人の技術や知識を若手に継承する仕組みを強化する一方で、それらをデジタルデータとして蓄積し、共有可能な資産とすることも重要です。
◦ 多様な人材の活用: 女性技術者や高齢者の再雇用、外国人材の積極的な導入などにより、人手不足を補い、現場に新たな活力を生み出すことができます。
• 技術的資源の積極的な導入と活用:
◦ ICT(情報通信技術)の活用: ドローンによる測量や点検、BIM,CIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング,コンストラクション・インフォメーション・モデリング)を活用した設計・施工管理により、作業の省力化、高精度化、情報共有の効率化を図ります。
◦ AI(人工知能)やロボット技術の導入: 危険作業や繰り返し作業にAIやロボットを導入することで、安全性の向上と人手不足の解消に貢献します。
◦ 情報共有プラットフォームの構築: 災害発生時には、現場状況や復旧進捗、資材在庫などの情報を一元的に管理し、関係者間でリアルタイムに共有できるプラットフォームが不可欠です。
• 経済的資源の効率的な活用:
◦ 補助金・助成金の積極的な利用: 国や地方自治体が提供する防災・減災対策、人材育成、DX推進に関する補助金や助成金を積極的に活用し、初期投資の負担を軽減します。
◦ 地域企業との連携強化: 複数の建設業者が連携し、資機材の共同購買や相互融通、共同受注を行うことで、コスト削減やリソースの効率的な配分が可能になります。
◦ 効率的な資材調達・備蓄: 災害時にも対応できるサプライチェーンを構築し、主要な資材の備蓄や緊急調達ルートを確保することで、復旧作業の遅延を防ぎます。
(※本記事で言及する具体的な技術や方策の一部は、提供された情報源には明示されていませんが、業界で議論されている一般的な知見として補足します。この点については、個別に事実確認を行うことを推奨します。)

Q3. 応急復旧から中長期的対策まで、建設現場が担うべき役割とは?
神戸大学教授の鍬田泰子氏が提言するように、建設現場は「孤立集落対策や二次災害を想定した応急復旧の工夫に加え、一次災害で弱体化した中山間地への中長期的対策が不可欠」であると認識し、多岐にわたる役割を果たす必要があります。
• 応急復旧における迅速な対応:
◦ ライフラインの早期回復: 電力、上下水道、通信などのライフラインは、被災者の生活と復旧活動の基盤です。建設現場は、道路啓開とともに、これらのライフラインの応急復旧に最優先で取り組みます。
◦ 緊急輸送路の確保: 孤立集落へのアクセスルートや緊急車両の通行を確保するため、土砂やがれきの撤去、仮設道路の設置などを迅速に行います。
◦ 仮設施設の建設支援: 被災者の生活再建を支える仮設住宅や仮設診療所などの建設にも貢献します。
◦ 二次災害防止対策: 応急復旧作業中に土砂崩れや河川の氾濫、火災などの二次災害が発生しないよう、現場の安全管理を徹底し、必要に応じて応急的な防災工事を実施します。
• 中長期的対策における地域の強靭化:
◦ インフラの強靭化: 道路、橋梁、河川、港湾などの社会インフラを、将来の災害に耐えうるように強靭化する工事を推進します。耐震補強、堤防や防潮堤の強化、高台移転支援などが含まれます。
◦ 地域住民との協働と合意形成: 復興計画の策定においては、地域の特性や住民のニーズを深く理解し、関係者と密接に連携しながら合意形成を図ることが重要です。建設業は、専門的な知見を提供し、地域コミュニティの再生に貢献します。
◦ 地域産業の再生支援: 被災した地域産業の施設復旧や新たな産業基盤の整備を通じて、地域の経済活動の回復を支援することも、建設業の重要な役割です。
Q4. 国土交通省との連携は、現場の防災・復旧にどう貢献しますか?
国土交通省北陸地方整備局事業調整官の木村一幸氏が能登半島での地震や豪雨災害への対応を説明したように、災害発生時における国土交通省との緊密な連携は、現場の防災・復旧活動を円滑に進める上で不可欠です。
• TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)との連携強化: 国土交通省は、大規模災害発生時に専門家チームであるTEC-FORCEを派遣し、被災状況調査や緊急復旧活動を支援します。現場の建設業者は、TEC-FORCEとの連携を強化し、情報共有や役割分担を明確にすることで、効率的な復旧作業が可能になります。
• 災害情報の共有と活用: 国土交通省から提供される道路啓開状況、被災インフラのデータ、気象情報などをリアルタイムで現場と共有することで、安全な作業計画の策定やリソースの適切な配分に繋がります。
• 公共工事における役割分担の明確化: 災害復旧の公共工事においては、国や地方自治体との間で役割分担を明確にし、迅速な契約手続きや資材調達、人員配置が行われるよう、平時からの連携協定の締結や情報交換が重要です。
• 平時からの訓練参加と情報交換: 災害発生時を想定した合同訓練に積極的に参加し、関係機関との顔の見える関係を構築することで、有事の際の連携がスムーズになります。また、平時から地域の防災会議に参加し、建設業の知見を提供することも重要です。
まとめ
複合災害が常態化する現代において、建設業が果たす役割は社会にとって不可欠です。今回のシンポジウムで示された知見は、単なる知識として留めるのではなく、現場レベルでの具体的な行動へと繋げることが求められます。担い手不足や資源の制約といった課題を乗り越え、最新技術の導入、多様な人材の育成、そして官民連携を強化することで、建設現場は日本の災害レジリエンス(回復力)を高める最前線として、これからも力強く社会を支え続けることでしょう。
災害に「備え」、そして「立ち向かう」ための知恵と行動を、今こそ実践する時です。
