建設業の未来を左右する設計トップ企業の決断と提言
この度、大手設計会社である大建設計において、田嶋慎也氏が新社長兼社長執行役員に就任し、菅野尚教社長兼社長執行役員は代表権のある会長に就く人事が決定した。この重要な経営層の若返りは、昨年11月にまとめられた「経営方針2024」で示された、設計の在り方や社員の働く環境の在り方、そして次世代への継承という方針に基づき行われたものであり、将来を担うメンバーとの「未来戦略会議」での議論を重ねた結果、このタイミングで引き継ぎを決めたという。田嶋次期社長は、AI(人工知能)などIT環境による業務変革が進む現代において、「やはり人が最も重要」であるとし、情報を判断し、設計に「思い」を乗せることができる**「人間力を持った人材を育成するための施策」**を自身の責務とすると抱負を語った。
同社は1948年からの歴史を尊重しつつ、地域に根差した事務所間の連携を堅持する「つづける」方針を大切にしつつも、企業として進歩するためには「やってみる」にのっとった挑戦が必要不可欠であると強調する。特に、最優先課題に位置付ける人材育成を通じた、企業としての「競争力」の強化こそが、現在の堅調な市況下においても気を引き締め、淘汰されないための鍵であるという強い決意が示されている。これは設計という領域を超え、建設業に従事する全ての現場職人や経営者が直視すべき、業界全体の重要な課題を提起するものである。

※画像は建設通信新聞さまからお借りしました。
業界全体に波及する「競争力の強化」という名の危機感
足元の建設市況は堅調に推移していると報じられる一方、設計トップ企業では、その楽観視を許さない強い危機意識が共有されている。大建設計が得意とする生産設備分野においても、エネルギー関係へのシフトなど変化が発生しており、たとえ売り上げが現在右肩上がりであったとしても、「来年も同じようなものになるとは全く思っていない」という認識を持つ。田嶋次期社長は、「逆に気を引き締めて競争力を身に付けなければ、われわれは淘汰(とうた)されるという気持ちで臨まなければならない。たやすい道ではない」と、現場で働く我々も無関係ではない厳しい現実を突きつけている。
この「競争力の強化」という課題は、現場で品質や納期を守る職人や監督にとって、より直接的な重みを持つ。設計がITで高度化されるほど、現場の施工品質、対応力、そしてコストパフォーマンスが厳しく評価される時代が到来する。大手企業が「淘汰」を意識するならば、中小企業や現場職人は、日々の業務を通じていかに自らの強みを磨き、替えの利かない存在となるかが問われるのである。
AI時代の業務変革と「人間力」の本質
新社長が特に注力する施策が、AI(人工知能)などIT環境による業務変革が進む中にあって、最も重要であるとする**「人」と「人間力」**の育成である。現代の現場業務においても、BIM/CIMの導入やデジタル計測技術の活用など、ITを活用した生産性向上の取り組みが加速しているが、いくらツールが進歩しても、最終的に「情報を判断して設計に“思い”を乗せる」のは、人間の役割である。
現場仕事にこれを置き換えると、単純な作業は機械やAIが担う可能性が高まる一方で、以下のような要素が、現場監督や職人にとって不可欠な「人間力」としてより強く求められるようになる。
1. 複雑な判断能力とリスク管理: 予期せぬ地盤の状況、天候の変化、設計変更への柔軟な対応など、マニュアルでは対処できない複雑な状況で、情報を総合的に判断し、安全と品質を両立させる能力。これは、単に知識があるだけでなく、経験と倫理観、そして設計者の「思い」を現場で実現しようとする強い意思に基づかなければならない。
2. 連携とコミュニケーションの質: 菅野前社長が「大建プラットフォーム」として、全社が一つの輪の中で仕事をするよう呼び掛け、全国で実行できたと振り返るように、現場においても、設計者、他業種、そして発注者との間で、人の気持ちのつながりや仕事そのものをつなげていく「連携力」が、高品質な成果を生む基盤となる。デジタルツールだけでは解決できない、人間同士の信頼関係の構築能力こそが、これからの現場の生産性を左右する。
3. 熟練の技と「思い」の継承: 「人間力」とは、情報をただ処理するのではなく、そこに熟練の技術と職人としての「思い」を乗せることである。この伝統的かつ本質的な価値を次世代に確実に「継承」していくことこそが、企業が歴史を踏まえ「つづける」ための重要な要件となる。
継承と挑戦のバランス:現場における「つづける」と「やってみる」
大建設計の新たな経営方針は、「継承しながら挑戦を」という明確なスタンスを示している。具体的には、1948年から続く歴史を踏まえ、地域に根差しながら各事務所同士の連携を進めるという「つづける」方針を堅持する。一方で、継承だけでは企業として進歩しないため、「やってみる」というキーワードにのっとって挑戦することも強調されている。
現場の職人や経営者が、この二つのキーワードを実践するうえで、以下の点が焦点となる。
「つづける」べきこと:
• 高品質の維持と地域への貢献: 創業以来培ってきた技術水準を維持し、地域社会との信頼関係を継続的に築くこと。
• 安全の堅持: 現場の安全管理体制や、長年にわたる事故防止のノウハウを確実に継承し、守り抜くこと。
「やってみる」べき挑戦:
• 非効率の排除と生産性の革新: デジタル技術を活用した省力化や時短術の導入に積極的に挑戦し、コスト最適化と生産性向上を図ること。
• 新しい働き方の模索: 時代の要請に応じた柔軟な働き方改革を進め、特に新社長が最優先課題とする人材育成を促進するための環境整備に挑むこと。
• 変化への対応: 得意分野におけるエネルギーシフトなどの市場の変化に対応するため、新しい工法や建材の知識を習得し、業務領域を広げる努力。
この「つづける」と「やってみる」のバランスこそが、厳しい競争環境の中で、建設現場が生き残り、進歩を遂げるための絶対条件となる。

組織的な若返り:人材育成を最優先課題とする真意
大建設計が次期世代への継承を明確に発信し、若返りを決断した背景には、持続的な成長のためには組織全体の新陳代謝が不可欠であるという認識がある。菅野前社長のリーダーシップの下で、将来を担うメンバーと立ち上げた未来戦略会議で議論を重ねた結果、このタイミングでの引き継ぎに至ったという事実は、トップダウンではない、ボトムアップの要素も含んだ組織変革の姿勢を示す。
田嶋新社長は、人材育成を最優先課題に位置付けており、これは、IT変革が進む中で、未来の設計(そして施工)を形づくるのは、結局のところ、高い人間力を持った「人」でしかないという確信の表れである。
現場監督や中小企業の経営者にとっては、この動きは、来るべき2025年問題や深刻な人手不足に対応するためのヒントとなる。若手の採用や定着を図るためには、単に賃金や福利厚生を充実させるだけでなく、彼らが「情報を判断し、設計に思いを乗せる」といった、本質的な仕事の喜びや、高度な人間性を育める環境を提供できるかどうかが、極めて重要となる。次世代が継承と挑戦を実践できる組織構造を構築することこそが、今、現場に求められている急務である。
まとめ
設計業界トップランナーの動きは、現在の建設業界が直面する課題を明確に示唆している。市場は堅調であっても競争は激化し、気を抜けば淘汰されるという強い危機感をもつべきである。この状況下で現場従事者が取るべき道は、AIやIT環境による変革を恐れるのではなく、それを活用しつつも、決してAIには代替できない「人間力」を徹底的に磨き上げることである。歴史を継承しつつ(つづける)、新たな技術や働き方に挑む(やってみる)というバランスの取れた経営哲学を、日々の現場業務に落とし込み、競争力を身に付けていくことが、サバイバル時代を生き抜く鍵となる。
現場の持続的な発展は、次世代を担う若手への真摯な育成にかかっています。
