国土交通省の最新調査で明らかになった契約実態
建設工事の元請け契約における約款の利用実態について、国土交通省が2023年12月以降に発注された工事を対象に2024年1月に実施した調査結果は、業界が直面する契約リスク管理の課題を浮き彫りにした。
この調査は、元請けとなる建設業者など1,062者を対象に実施されたものです。
調査結果によると、元請け全体で「民間建設工事標準請負契約約款(民間約款)を準用」したケースは38.9%であり、「民間約款を準用し一部修正して使用」したケースが10.3%となり、民間約款をベースとした約款の使用は約5割弱に留まった。
一方で、**「独自(発注者)の契約約款を使用」**した割合は28.8%に達し、多くの現場で標準的な約款ではない形式が採用されている実態が確認された。
特に、民間発注者に限定した調査では、「独自の発注者約款・約款を使用」とする回答が52.7%と過半数を占めており、発注者の半数が独自様式を用いている現実がある。
これは、中小の建設業者が契約実務において、約款の内容を慎重に吟味する必要性が高まっていることを示唆する重要なデータである。
以下は、よくある質問に見る契約約款の重要性についての解説です。
Q1: なぜ民間建設工事標準請負契約約款(民間約款)の準用が推奨されているのか?
A1: リスクの公平な分担と予見可能性の確保が主目的である。
近年、建設業界を取り巻く環境は急速に変化しており、資材価格の高騰、人手不足に伴うコスト増加、そして工期の長期化など、予期せぬ外部環境の変化によって発生するリスクが増大している。
国土交通省は、こうした潜在的なリスクを元請けと発注者間で公平かつ適正に分担し、円滑な工事施工を確保するために、**民間建設工事標準請負契約約款(民間約款)**の積極的な活用を推奨している。
特に、2023年12月に策定された「発注者・受注者間に係る建設工事請負契約における適正化ガイドライン」では、民間約款やこれを踏まえた約款の使用が、請負契約の基本原則として位置づけられた。
この約款は、特にリスク分担や契約変更手続きに関する規定が充実しており、発注者と受注者の双方にとって予測可能性を高める役割がある。
しかし、今回の調査では、こうしたガイドラインや推奨にもかかわらず、その浸透が十分ではない実態が明らかになった。標準約款の利用を促すことで、業界全体の透明性を高め、長期的な品質確保と生産性向上に寄与することが期待されている。
Q2: 元請けとして契約する際、最も多い約款の形態とその内訳は?
A2: 約半数が民間約款ベースだが、独自約款の存在感も大きい。
今回の調査では、元請け契約全体で民間約款を「準用」または「準用し一部修正して使用」している割合は合計で49.2%であった。これは、約半数の契約が標準的な指針に沿っていることを示す。
一方で、「独自(発注者)の契約約款を使用」している割合は28.8%、「その他(国や地方公共団体などの約款)を準用・修正して使用」している割合は19.8%となっている。この内訳を細かく見ると、工事金額によって傾向が変化する点が注目される。
例えば、公共工事においては、その金額規模にかかわらず約款の準用が進んでいる。しかし、民間発注者との契約においては、工事規模が大きくなるにつれて、民間約款の準用率が低下し、独自約款の使用が増加する傾向にある。
特に特定建設業の工事に限定した場合、民間約款の準用率は約3割程度にとどまり、工事金額が3,000万円以上になると、この傾向はさらに顕著になる。
これは、大規模な工事を発注する民間企業やゼネコンが、自社の都合や慣習に合わせた独自の約款を採用する傾向が強いことを示しており、受注側である建設業者は、契約前の詳細な確認が不可欠となる。

契約約款・契約書の運用状況
※画像は建設通信新聞さまからお借りしています。
Q3: 民間発注者が独自約款を採用する傾向が強いのはなぜか?
A3: 自社の都合に合わせたリスク管理、慣習、または特定の業務フローへの適合を目的としている可能性が高い。
民間発注者に対する調査結果では、「独自(発注者)の契約約款を使用」が52.7%と半数を超えている。
この傾向は、特に電気、ガス、鉄道などの特定の業種において顕著であり、これらの業種は伝統的に独自の契約慣行や厳格な安全基準、あるいは特別な業務フローを持っているため、標準的な民間約款では対応しきれない部分を自社の約款で補おうとする動きが見られる。
しかし、独自約款の使用は、受注側にとって不公平なリスクを押し付けられる可能性を内包する。
例えば、設計変更や工期遅延が発生した場合の費用負担や、瑕疵担保責任の範囲など、標準約款であれば公正に規定されているはずの条項が、発注者に極端に有利になるように修正されている場合がある。
中小の建設業者が、発注者の高い交渉力に対抗するためには、契約書を詳細に読み解き、不利な条項がないか、特にリスク分担に関する規定が公平に定められているかを専門家と連携して確認する姿勢が重要である。
Q4: 独自約款を受け入れる場合、建設業者が現場で直面しうる具体的なリスクは?
A4: 追加コストの自社負担、工期延長に伴うペナルティ、予期せぬ責任範囲の拡大などである。
独自約款の最大のリスクは、「不測の事態」における費用の負担である。
例えば、原材料価格が急騰した場合、標準約款であれば、約款の規定に基づき請負代金額の見直し交渉を求めることが可能である。
しかし、独自約款において、この物価スライド条項や設計変更に伴う代金変更の規定が曖昧であったり、発注者側に一方的に有利な内容に改変されていたりすると、受注側が全ての追加コストを被る事態に陥りかねない。
また、工期の延長が発生した場合、天候不良など受注側の責任ではない要因であっても、独自約款の規定次第では、工期遅延に伴う違約金やペナルティが課せられる可能性がある。
さらに、瑕疵担保責任(契約不適合責任)についても、その期間や範囲が標準約款よりも広範囲に設定されている場合があり、工事完了後の予期せぬ負担となるリスクがある。
現場で働く人々が安心して業務を遂行し、適正な利益を得るためには、これらの契約上のリスクを事前に排除することが、経営上の最重要課題の一つとなる。

Q5: 契約締結前に建設業者が必ず確認すべき重要事項は何か?
A5: 約款の種別を特定し、特にリスク分担と支払い条件を精査する。
まず、提示された約款が「民間約款を準用」しているのか、「独自約款」であるのかを明確に特定することが肝要である。
独自約款である場合は、民間約款と比較して、どの条項がどのように変更されているかを重点的に確認する必要がある。特に以下の三点について、細心の注意を払って確認することが推奨される。
1. リスク分担条項の明確性: 物価変動、設計変更、地中障害物の発見など、工事中に発生しうる不測の事態に対する費用負担や工期延長の取り決めが公平かつ具体的に記載されているかを確認する。
発注者側が一方的に免責されるような規定や、受注者側に過大な責任を押し付けるような規定がないかを精査する。
2. 契約変更と代金改定の手続き: 請負代金額の変更や工期の変更を求める際の手続きが明確であり、発注者側が不当に拒否できない仕組みになっているかを確認する。
特に、基準日の設定や変更が必要となった際の通知期限など、手続きのフローが現実的であるかどうかが重要である。
3. 支払い条件と検収手続き: 完成後の検収手続きや代金の支払期限、前払金・中間払金の規定が明確であるかを確認する。
下請けへの支払いを円滑に行なうためにも、元請けとしてのキャッシュフローを圧迫しない支払い条件となっているかが非常に重要である。
国土交通省が示した適正化ガイドラインの趣旨を理解し、その精神に則った契約交渉を行なうことが、自社を守るための最良の手段である。契約は、現場での努力を正当に評価し、適正な対価を得るための土台となる。
まとめ
国土交通省の調査結果は、建設工事における元請け契約の約款が、依然として標準化されていない実態を明確に示している。
特に民間発注者との契約において独自約款が多用される傾向は、受注側である建設業者、特に中小企業に対し、契約内容の精査とリスク管理の重要性を再認識させる警鐘といえるのかもしれません。
