生成AIで労災リスクを可視化―「VLモニター」を開発
東洋建設は、生成AIを活用して工事現場のカメラ映像から労働災害リスクを監視・分析する新技術「生成AI映像分析システム(VLモニター)」を開発した。このシステムは、画像と言語情報を統合的に理解する「VLM(視覚言語モデル)」を採用しており、現場のカメラ映像を任意のタイミングで切り出し、事前に登録した指示文(プロンプト)に基づいてAIが状況を分析する仕組みである。
分析結果は画面表示と音声で通知され、建設機械やつり荷との接触リスクがある警戒エリアへの侵入などを即座に警告する。従来の画像認識AIとは異なり、膨大な事前学習が不要で、現場職員が作業内容に合わせてプロンプトを調整できる柔軟性が特徴だ。同社はこの技術の特許を出願中で、今後は他の計測機器との連携も視野に入れている。

システムの概要(報道発表資料から)
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
現場の知恵を「プロンプト」に変換する時代の到来
建設現場における安全管理は、季節や天候、工程の進捗によって刻一刻と変化する。従来のAI監視システムが抱えていた最大の課題は、この「変化への対応力」であった。特定の重機や作業員を認識させるためには、事前に膨大な画像データを学習させる必要があり、一度システムを構築すると、監視対象や条件を変更するのに多大なコストと時間を要していたからだ。
今回開発された「VLモニター」が画期的なのは、現場監督や安全管理者がもつ「現場の知恵」を、そのままAIへの指示として反映できる点にある。VLM(視覚言語モデル)は、人間が見たままを言葉で説明できるように、画像を認識し、その意味を言語的に理解する能力をもつ。つまり、現場監督が「クレーンの旋回範囲内に人が入ったら教えてくれ」とテキスト(プロンプト)で入力すれば、AIはその指示に従って映像を解析し、危険を検知した瞬間に「警戒エリアに作業員が侵入しました」と音声と言葉で教えてくれるのである。
これは、単なるツールの導入にとどまらず、現場の安全管理手法そのものを変える可能性を秘めている。例えば、強風が予想される日には「飛散の恐れがある資材が放置されていないか確認せよ」というプロンプトを設定し、熱中症リスクが高い夏場には「長時間動きが止まっている作業員がいないか監視せよ」といった指示を追加することも理論上は可能となる。現場の状況を最もよく知る人間が、その日その時に必要な「眼」をAIにもたせることができるのだ。
Q1. 専門的なプログラミング知識がなくても扱えるのか?
A1.扱える可能性が高い。
本システムの核となるのは「プロンプト(指示文)」である。これはChatGPTなどの生成AIに入力する文章と同様に、自然言語(日本語)で記述するものである。したがって、複雑なコードを書く必要はなく、現場職員が日常的に使っている言葉で指示を調整できる点が強みだ。
作業内容ごとに現場職員がプロンプトを調整して効率的に監視できるとされており、現場主導での運用を前提に設計されていることがわかる。

画面イメージ(報道発表資料から)
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q2. 導入のために大規模な設備投資が必要か?
A2.*既存資産を活用できる設計となっている。
システムは、現場に設置したパソコンからカメラ映像を取り込み、市販のクラウド型AIサービスとAPIで連携して分析を行なう仕組みである。
つまり、高性能な解析用サーバーを現場ごとに設置する必要はなく、インターネット環境とパソコン、そしてカメラがあれば導入が可能であると考えられる。これは、予算に制約のある中小規模の現場にとっても導入のハードルを下げる要素となるだろう。
Q3. 警報はどのように通知されるのか?
A3.「画面表示」と「音声」の両方で行なわれる。
建設現場は騒音が激しく、常に警告灯やブザーが鳴っている環境も珍しくない。その中で、単に画面に警告が出るだけでは見落とすリスクがある。
本システムでは音声による通知も行なわれるため、事務所内で他の作業をしていても異常に気づきやすい。また、警告文も表示されるため、「何が原因で警報が鳴ったのか」を即座に視覚的に確認できる点は、迅速な是正措置につながる重要な機能である。
Q4. 従来のAIカメラと比べて何が優れているのか?
A4.「文脈理解」と「事前学習レス」の2点である。
従来の機械学習型AIは「人」「車」といった物体の検出は得意だが、「つり荷の下に人がいる」といった状況(文脈)の判断は苦手であった。また、新しい機材を導入するたびに追加学習が必要だった。
対して本システムは、生成AIが最初から広範な知識をもっているため、事前学習なしで多様な対象物を認識できる。さらに、「建設機械やつり荷などとの接触が懸念される警戒エリア」といった複雑な条件も、プロンプトでの指示によって柔軟に設定・変更が可能である。
安全管理のDXがもたらす現場のメリット
この技術が現場にもたらす最大の恩恵は、安全監視業務の「質の向上」と「省人化」の両立である。これまで現場監督が巡回やモニター監視に費やしていた時間を、AIが代行してくれることになる。特に、人間では集中力の維持が難しい長時間の監視や、複数のカメラ映像の同時チェックにおいて、AIは疲れを知らない強力なサポーターとなる。
また、東洋建設は今後、このシステムを他の作業・計測機器とも連携させ、技術の高度化を図るとしている。これは、将来的に現場のあらゆるデータがAIに集約され、より高度な安全予知が可能になることを示唆している。例えば、重機の稼働データと映像分析を組み合わせることで、危険な兆候を事前に察知し、事故が起きる前に作業を一時停止させるといった介入も可能になるかもしれない。
まとめ
東洋建設の「VLモニター」は、生成AIという最先端の技術を、現場の「安全」という最も基本的かつ重要な課題解決に応用した好例である。特筆すべきは、AIをブラックボックス化せず、現場の人間が「言葉」でコントロールできる余地を残した点にある。
季節や天候、作業工程に合わせて、現場の知恵をプロンプトとして入力することで、その現場に最適な安全監視システムを即座に構築できる。これは、人手不足が深刻化する建設業界において、安全性を担保しながら生産性を向上させるための強力な武器となるだろう。
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