南海トラフ地震を想定―九州で初の「道路啓開」大規模訓練を実施
九州地方整備局や管内の県・政令市、各県建設業協会などで構成される「九州道路啓開協議会」は16日、南海トラフ巨大地震の発生を想定した初となる道路啓開訓練を実施した。この訓練には、協議会の構成機関や整備局直轄事務所など計60機関から約160人が参加し、大規模な連携体制の確認が行なわれた。
訓練の主眼は、九州の北部や西部から高規格道路などを利用して、大分や宮崎といった東側沿岸域へ向けて道路を切り開く「九州東進作戦」の手順確認である。宮崎県内で震度6強を観測し大津波警報が発令されたという過酷な状況を想定し、福岡市に設置された本部と各地をウェブで接続。机上での被災調査訓練に加え、実際の道の駅を使用した通信訓練や放置車両の移動訓練など、実動を伴う演習が展開された。訓練中には通信障害が発生するなど予期せぬ事態もあったが、福井貴規会長はこれを計画策定に向けた重要な課題発見の機会と位置づけている。

16日、南海トラフ巨大地震を想定した初の道路啓開訓練を行なった
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
そもそも「道路啓開」とはどのような作業を指すのか
建設業界において「道路啓開」という言葉は、災害発生直後の初動対応として極めて重要な意味をもつ。これは、地震や津波、土砂崩れなどで寸断された道路に対し、緊急車両や救援部隊が通行できる最低限のルートを確保するために、瓦礫の撤去や段差の修正を緊急的に行なう作業のことである。本格的な復旧工事の前段階にあたり、人命救助や物資輸送の生命線を確保するための「命の道」を開く行為といえる。
今回の訓練では、特に南海トラフ巨大地震という広域災害を想定している点が特徴だ。被害が甚大になると予想される太平洋側(東側)へ、比較的被害が少ないとされる日本海側や九州西部から救援ルートを啓開していく一連の流れを確認することが、建設業関係者や道路管理者にとって喫緊の課題となっている。地域を守る建設業が、いざという時に迅速に重機を動かし、道を切り開くことができるかどうかが、減災の成否を分けることになる。
「九州東進作戦」の具体的な狙いと背景
今回実施された訓練の核となるのが「九州東進作戦」である。これは文字通り、九州の西から東へと救援の手を伸ばすための戦略的な道路啓開計画だ。南海トラフ地震が発生した場合、宮崎県や大分県などの太平洋沿岸部は津波や強い揺れにより壊滅的な被害を受けるリスクが高い。
一方で、九州北部や西部は相対的に被害が軽減される可能性があるため、これらの地域を拠点として人員や資機材を東進させることが合理的となる。訓練では、高規格道路を主要な輸送路として見立て、啓開手順の検証が行なわれた。具体的には、18ある啓開調査路線を対象に、どこが通行不能でどこが使えるかを素早く判断する被災調査のシミュレーションが実施された。これは、被災地へのアクセスルートを多重的に確保し、救援活動が滞らないようにするための極めて実践的なアプローチであるといえる。
実動訓練で見えた現場連携の重要性と難しさ
机上のシミュレーションにとどまらず、実際に人とモノを動かす実動訓練が行なわれたことも今回の大きなポイントである。九州地方整備局福岡国道事務所は、大分県由布市の道の駅「ゆふいん」へ移動し、本部との通信訓練を実施した。
また、宮崎河川国道事務所は宮崎県都城市の道の駅「都城NiQLL」において、災害時に大きな障害となる放置車両の移動訓練を行なった。これらの訓練には各県の建設業協会も関わっており、官民が一体となって災害に対処する体制が試された形だ。特に放置車両の移動は、法的な権限の問題や物理的な作業の困難さが伴うため、平時からの訓練が欠かせない。重機やレッカーを用いて迅速に車両を排除し、啓開車両の進路を確保する手順を、ウェブを通じて参加機関全体で共有・確認したことは、現場対応力の向上に直結する成果といえるだろう。

※画像はイメージです。
改正道路法と2025年度の計画策定に向けて
今回の訓練が実施された背景には、改正道路法の施行により、大規模災害に備えた道路啓開計画の策定が法定化されたという事情がある。これを受け、九州道路啓開協議会は2025年度中に最終的な計画を策定することを目指している。つまり、今回の訓練は単なるイベントではなく、法的な裏付けをもった計画作りのための重要なプロセスの一つである。
実際に訓練を行なうことで、計画の机上の空論化を防ぎ、実効性の高いマニュアルを作り上げることが求められている。計画策定に向けた情報伝達や共有体制の確認が行なわれたのもそのためだ。法律で定められた義務を果たすためだけでなく、地域社会の安全を守るという建設業の社会的使命を全うするためにも、こうした準備は不可欠である。
通信障害という「想定外」から得られた教訓
訓練中には通信障害が発生するなど、予期せぬトラブルにも見舞われた。しかし、災害現場においては、こうした想定外の事態こそが常態であるともいえる。通信インフラがダウンした状況下で、いかにして現場と本部、あるいは関係機関同士が連携を取り合うかは、極めて重大な課題である。
福井会長が「課題を見つけるための訓練でもあった」と述べたように、スムーズにいかなかった点こそが、今後の計画策定における貴重な材料となる。通信手段の多重化や、オフラインでも機能する指揮命令系統の確立など、浮き彫りになった課題を一つひとつ潰していく作業が、2025年度の計画完成に向けて求められることになる。失敗やトラブルを隠すのではなく、それを教訓として共有し、改善につなげる姿勢こそが、強靭な防災体制を構築する鍵となる。
地域建設業に求められる「守り手」としての覚悟
今回の訓練には各県の建設業協会が参加しており、地域建設業が災害対策の最前線に立つ存在であることが改めて示された。大規模災害時において、道路啓開の実働部隊となるのは、地元の地形や道路事情を熟知し、重機や資材を保有する地域の建設会社である。行政機関だけでは対応しきれない現場の実作業を担うのは、紛れもなく建設業従事者たちだ。
「九州東進作戦」のような広域的な連携計画においても、個々の現場で実際に動くのは中小を含む建設企業の力である。日常的な業務で培った技術と機動力が、有事の際には人々の命を救う力となる。今回の訓練を通じて得られた知見や課題意識を、各企業がもち帰り、BCP(事業継続計画)の見直しや社員教育に活かしていくことが期待される。地域社会からの信頼に応え、「地域の守り手」としての役割を果たすためにも、こうした訓練への積極的な関与と情報収集を継続していく必要があるだろう。
まとめ
九州道路啓開協議会による初の道路啓開訓練は、南海トラフ巨大地震を見据えた「九州東進作戦」の実効性を高めるための重要な第一歩となった。通信障害などの課題は残ったものの、官民60機関が連携し、実動を含めた手順確認ができた意義は大きい。2025年度の計画策定に向け、建設業界は地域防災の要として、さらなる対応力の強化と連携深化が求められている。
本サイトについて、ご質問・ご相談がある場合は、 下記のお問い合わせフォームからお気軽にお寄せください。
あわせて、協力会社探しや人材確保など、日常的な情報収集の場として無料で利用できる建設業向けマッチングサイト『建設円陣』もぜひご登録ください(緑のバナーをクリック)。
