国土交通省の調査により、都道府県や政令市といった地方自治体が発注する公共工事において、積算に用いられる「歩掛かり」が現場の実態と乖離しているという課題が浮き彫りになりました。国交省の標準歩掛かりは比較的大規模な直轄工事を基に設定されているため、小規模な案件が多い自治体発注工事にはそぐわないケースが少なくありません。この結果、適正な工事価格が算出されず、受注者である建設事業者が不利益を被る可能性が指摘されています。調査対象の都道府県・政令市の約半数が、こうした実態との乖離を埋めるべく独自の歩掛かりを設定していますが、一方で調査の手間や人員不足、会計検査院からの指摘への懸念などから、独自歩掛かりの策定に踏み切れない自治体も多く存在するのが現状です。この問題に対し、国交省は各自治体の好事例をまとめた事例集を作成し、地域の実情に応じた適切な歩掛かり設定を後押しする方針を示しています。
Q1.そもそも「歩掛かり」とは何か?
建設業界における「歩掛かり(ぶがかり)」とは、ある特定の作業を行う際に必要となる作業手間、つまり作業員数や作業時間を数値で示したものです。正式には「施工単位あたり作業量」と呼ばれ、例えば「コンクリート1立方メートルを打設するために、普通作業員が何人、何時間必要か」といった形で定められています。公共工事の予定価格を算出する積算業務において、この歩掛かりは労務費を計算するための基礎となります。材料費や機械経費などと合わせて工事全体の費用を算出する上で、歩掛かりは欠くことのできない重要な指標です。この基準があることで、発注者は公平かつ客観的な基準で工事費を算定でき、受注者側も適正な見積もりを作成することが可能になります。

Q2.なぜ、国の基準と現場の実態に「乖離」が生まれるのか?
今回の国土交通省の調査で明らかになった最大の問題点は、国が定める「標準歩掛かり」と、地方自治体が発注する工事の「現場実態」との間に大きな乖離が存在することです。この乖離が生まれる主な理由は、標準歩掛かりが国交省直轄の大規模工事をベースに作成されている点にあります。国の直轄工事は、高速道路や大規模ダムの建設など、重機を効率的に投入でき、作業の生産性が高い現場が中心です。
しかし、地方自治体、特に市区町村が発注する工事は、道路の補修や側溝の設置といった、比較的小規模なものが大半を占めます。小規模工事では、大型重機が入れない、作業スペースが狭い、頻繁な資材の小運搬が必要になるなど、大規模工事にはない特有の手間が発生します。標準歩掛かりはこうした小規模工事特有の非効率性を想定していないため、そのまま適用すると、現場で実際にかかる手間よりも低く労務費が見積もられてしまうのです。これが「歩掛かりと現場実態の乖離」の正体であり、多くの建設事業者が「公共工事は儲からない」と感じる構造的な原因の一つとなっています。
Q3.自治体はなぜ独自の歩掛かりを設定しないのか?
現場の実態に合わないのであれば、各自治体が独自に地域の実情に即した歩掛かりを設定すればよい、と考えるのが自然です。実際に、調査対象の都道府県・政令市の約半数にあたる33団体が、受注者からの要望や現場職員の声を受け、独自の歩掛かりを設けています。
しかし、残る34団体は独自歩掛かりを設定していません。その理由として最も多かったのは「都度見積もりを徴集して対応している」というものでしたが、それ以外に深刻な課題も見えてきます。具体的には、**「会計検査院から独自設定を指摘される懸念」(17団体)、「歩掛かり設定のための調査の手間」(13団体)、「作り方やフローが分からない」(7団体)**といった回答が挙がりました。
これは、自治体職員が積算基準の妥当性について会計検査で厳しく問われることを恐れたり、歩掛かりを新規に作成するための調査を行う人員やノウハウが不足していたりする実情を示しています。結果として、実態と合わないと認識しつつも、国の標準歩掛かりを準用せざるを得ない状況に陥っている自治体が多いのです。

Q4.国はどのような対策を講じようとしているのか?
国土交通省は、こうした課題を認識し、対策に乗り出しています。具体的には、独自歩掛かりの策定に困っている自治体を支援するため、個別の自治体の好事例をまとめた「事例集」を作成する方針です。
この事例集は、すでに独自歩掛かりを運用している自治体が、どのようにして調査を行い、基準を設定したのか、その具体的な手法やプロセスを共有することを目的としています。例えば、独自設定の方法として、団体職員が自ら調査するケースや、専門の積算事務所に業務委託するケースなど、さまざまなパターンが報告されています。こうした成功事例を示すことで、「作り方が分からない」と悩む自治体に対して具体的な道筋を示し、適切な歩掛かり作成を後押しする狙いがあります。国として、画一的な基準を押し付けるのではなく、各地域の実情に合った積算基準の策定をサポートすることで、建設業界全体の健全な発展を目指す姿勢を示した形です。
まとめ
公共工事における積算の根幹をなす「歩掛かり」が、特に地方自治体発注の小規模工事において現場の実態と乖離している問題は、建設事業者の経営を圧迫する深刻な課題です。その背景には、国の標準歩掛かりと地方の工事規模の違い、そして自治体側の制度的・人的な制約が存在します。国土交通省が主導する事例集の作成は、この膠着状態を打破し、各地域の実情に即した公正な積算基準を確立するための重要な一歩となるでしょう。受注者である我々建設事業者も、この動向を注視し、必要であれば発注者に対して現場の実態を積極的に伝えていく姿勢が求められます。
