建設業において人材の定着は長年の課題であり、特に若手職人の早期離職は企業に大きな打撃を与えている。給与や労働条件だけでなく、体調不良や健康不安から職を離れるケースは少なくない。現場で働く人材にとって、体力や健康状態はそのまま仕事の継続可否に直結する要素である。こうした背景から、従業員の健康管理を教育や育成の一環として組み込むことが注目されている。その手法の一つとして、健康管理アプリ「あすけん」の活用が有効である。
「あすけん」は、食事を記録すると自動で栄養バランスを分析し、管理栄養士のアドバイスをAIが届けてくれる仕組みを持つアプリだ。スマートフォン一台で利用可能であり、利用者は日々の食事を写真やバーコードで記録できる。さらに14種類の栄養素を自動で計算し、過不足を可視化することで、食習慣の改善につなげられる。現場作業員の多くはコンビニ食や外食に偏りがちであるため、このように即座に栄養状態を確認できる機能は極めて実用的だ。

建設現場においては、体力を酷使する夏場や繁忙期に栄養不足や偏りが顕著になる。水分補給を意識していても、塩分やミネラルが不足し、熱中症を招くリスクは依然として高い。従来は個人の経験則に頼るしかなかったが、アプリの導入により、客観的な数値に基づいた食生活改善が可能となる。若手職人に対して「安全教育」と同じように「健康教育」を行うことで、体調不良による欠勤や離職を防ぐことができる。
さらに、あすけんは個人利用だけでなく、法人向けのサービス展開も行っている。企業単位で導入すれば、従業員の利用データを匿名化して集計し、全体の傾向を把握することができる。たとえば「現場チーム全体で野菜摂取量が不足している」といった課題を明確にし、社食や弁当支給の改善に結びつけるといった取り組みが可能になる。こうした施策は、健康経営の一環として企業価値を高め、取引先や採用活動においてもプラスに作用する。
現場での実際の運用方法も工夫次第で多様に広がる。ある中小建設会社では、毎週の安全ミーティングに健康コーナーを設け、職人があすけんの画面を示しながら自分の食事傾向を簡単に報告する場をつくっている。これにより職場全体に「健康を意識する文化」が根付き、互いに声を掛け合う風土が醸成された。単に労働災害を防ぐという枠を超え、健康を通じたチームビルディングにも寄与している。

筆者のある日のあすけん記録
若手の教育という観点からも、アプリ活用は有効だ。従来、新人教育といえば技術や安全知識の習得に偏っていたが、今後は「自身の体を管理する能力」も不可欠なスキルと考えるべきである。実際、体調を崩して長期欠勤に至る若手は少なくなく、結果的に現場に馴染めず退職する例もある。体調管理を教育の一部として定着させることは、技能習得を支える基盤づくりに他ならない。
企業側にとっても、この取り組みは人材定着や採用力向上に直結する。建設業界は慢性的な人材不足に悩まされているが、若手にとって「健康に配慮してくれる会社」という印象は大きな魅力となる。採用面接の際に「あすけんを活用して社員の健康を支えている」と説明すれば、企業姿勢としての誠実さを示せる。これは福利厚生の一環として強調でき、求人広告だけでは伝えきれない差別化要素になるだろう。
一方で、導入にあたっては留意点もある。第一に、職人がスマートフォンを持ち込める環境を整えることが必要だ。現場によっては作業中に携帯の使用が制限される場合もあるため、休憩時間や昼休みなど、記録のタイミングを明確に定める必要がある。また、プライバシーへの配慮も欠かせない。食事内容は個人の生活習慣に直結するため、共有範囲を明確にし、強制的な報告にならないよう運用ルールを設計することが重要だ。
総じて言えるのは、健康管理は単なる個人の問題ではなく、企業の生産性や安全性、ひいては事業継続にまで影響を及ぼす経営課題であるという点だ。若手職人の教育段階から健康を意識づけ、実際にアプリを用いて習慣化させることは、将来的な技能継承を支える土台となる。離職率の低下、労災リスクの軽減、採用競争力の強化といった成果につながる可能性は大きい。
今後、建設業における「人材育成」は技術教育だけにとどまらず、生活習慣や健康管理を含めた総合的な教育へと拡大していくだろう。その先駆けとして「あすけん」を活用することは、現場仕事に従事する人々の未来を守る有効な手段となる。企業にとっても、持続的な経営基盤を築く上で欠かせない投資といえるのではないだろうか。
