竹中工務店は、オフィスなどの新築や改修を行う際、顧客の要望を明確に引き出すために独自に開発した「アクティビティカード」の活用を拡大している。このカードは、想定される職場の使い方を分類・整理したかるたサイズのツールであり、顧客が理想とする職場像を明確にする手助けとなる。これにより、設計者は顧客の真のニーズを的確に捉え、建設的な提案が可能となる。2017年以降、企業のオフィス、大学キャンパス、自治体庁舎、研究施設といった整備案件に適用され、その実績は既に100件を超過した。このカードは、建築物環境総合性能評価システム(CASBEE)ウェルネスオフィスの2020年版評価マニュアルにも、多様な働き方に対応する事例として掲載されており、今後、病院や都市計画分野への応用も視野に入れ、時代に合わせたアップデートが計画されている。
Q1: アクティビティカードとは具体的にどのようなツールですか?
アクティビティカードは、顧客が求める「働き方」や「職場の使い方」を直感的に選択できるよう設計された、かるたサイズのカード群である。種類としては、オフィス版が87シーン、大学キャンパス版が84シーン、自治体庁舎版が100シーン存在する。カードには、例えば「わいわいがやがやアイデアを出す」や「ひとりで集中する」といった働き方(アクティビティ)を表す具体的な文章と、それに対応するイメージ写真が印刷されている。さらに、「気分転換に体を動かす」といった、働く環境全体の使い方を示すシーンも含まれる。これは、単に空間の機能配置を問うだけでなく、その空間でどのような活動を行いたいか、あるいはどのような状態でありたいかという、顧客の抽象的な要望を具現化するための媒体として機能する。建設業、特に現場や設計部門において、施主の曖昧な要望を具体的な空間設計や施工計画に落とし込む際の解像度を大幅に向上させる可能性を秘めたアプローチである。

※多様な想定シーンを記載するアクティビティカード。画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしました。
Q2: カード開発の背景にある知見は何ですか?また、なぜ特別な知識が不要なのですか?
アクティビティカードは、竹中工務店が2006年に設置したワークプレイスプロデュース本部で長年にわたり培ってきた知見と、学術研究の成果を参考に記載内容が決定されている。この知見は、顧客が理想とする働く環境の定義、分類、整理に特化しており、専門的な建築知識を持たない顧客でも、自らの要望を容易に表現できるように設計されている。
カードは顧客とのワークショップで活用される。参加者は実現したい働き方や職場の使い方について話し合いながら、該当するカードを直感的に選ぶことが可能である。この「直感的」である点が鍵であり、特別な専門知識は一切不要であるため、誰でも議論に参加し、自らの意見を明確に反映させることができる。
従来の聞き取り調査や専門用語を用いたヒアリングでは、顧客が真に求めているニーズを抽出することが困難であった。しかし、このカードを用いることで、顧客は視覚的かつ具体的なアクティビティを基に要望を提示できる。結果として、顧客と設計者(または現場管理者)間の意思疎通が格段に円滑になり、より建設的な議論を進め、要望を具体的な計画へと迅速に落とし込むことが可能になった。この手法は、建設現場における職人や関係者間の複雑なコミュニケーションにおいても、具体的な「作業アクティビティ」や「環境ニーズ」を言語化し共有する際の有効なヒントとなることが考えられる。
Q3: ワークショップでの活用方法と、意思疎通が円滑になるメカニズムを教えてください。
ワークショップでは、顧客は自分たちの職場で実現したい「働き方」や「使い方」に対応するカードを選び出す。例えば、「わいわいがやがやアイデアを出す」といった協働的な活動に関するカードの優先順位が高い場合、その顧客はオープンスペースやコラボレーションを促進する環境を強く求めていることが設計者に即座に伝達される。逆に、「ひとりで集中する」や「気分転換に体を動かす」といった個人の生産性や健康維持に関わるカードが重要視される場合、静穏な集中スペースやリフレッシュエリアの確保が必須要件となる。
このプロセスにおいて、カードは顧客の抽象的なイメージや願望を、具体的な「アクティビティの集合体」として可視化する役割を担う。顧客は「なんとなく快適な空間が欲しい」といった曖昧な表現ではなく、「この87シーンのうち、特にこれらのシーンが重要だ」と、具体的な要件を提示できる。
これにより、設計者側は要望を計画に落とし込む際に、根拠となる具体的な活動内容を把握しているため、ニーズを捉えた提案が可能になる。聞き取り調査のような非構造的なコミュニケーションと比較し、カードを媒介とすることで、顧客と設計者の間で要望に対する認識のズレが生じにくく、効率的かつ建設的な議論が促進される。これは、建設現場で職人や下請け業者が、自分たちの作業環境や必要な資源について、明確な言葉で要求を伝えることが難しい場合に、具体的な「活動カード」のようなツールを用いることで、意思疎通のミスを減少させ、生産性向上に寄与する可能性を示唆する。
Q4: カードの適用実績と外部からの評価はどうなっていますか?
アクティビティカードは、2017年の導入以降、広範な分野で活用が図られており、企業のオフィス、大学、自治体庁舎、研究施設などの整備案件において、適用実績は100件を超過した。これは、特定の用途に限定されず、働く環境、学ぶ環境、公的なサービスを提供する環境といった、多様な空間設計の場で有効性が認められていることを示唆する。
さらに、このカードの概念は、建築業界の外部評価機関からも注目を集めている。建築物環境総合性能評価システム(CASBEE)ウェルネスオフィスの2020年版評価マニュアルにおいて、アクティビティカードは「多様な働き方に対応する事例」として正式に掲載された。これは、単なる要望把握ツールとしてだけでなく、利用者の健康や快適性に配慮した環境づくり(ウェルネスオフィス)を具現化するうえでの有効な手段として認められたことを意味する。
同本部の岩崎太子郎本部長は、今後の展開として、このカードを病院や都市計画といったより大規模で複雑な領域にも活用していく方針を示している。また、近年急速に多様化する働き方に対応するため、テレワークの種類など、時代に合わせた内容のアップデートを継続的に行なう考えである。この継続的な更新姿勢は、建設業における働き方改革の推進や、多様な人材の確保・定着を目指す中小企業にとって、自社の環境定義を見直すうえでの重要な示唆を与えるものである。

※画像はイメージです
Q5: 建設業における働き方改革や人材確保への応用的な示唆はありますか?
アクティビティカードが示す最大の価値は、抽象的な「働き方」や「環境ニーズ」を具体的に言語化・可視化し、関係者間の認識を統一する点にある。建設現場においても、特に中小企業では、現場監督、職人、協力会社間で作業手順や休憩環境、安全確保に対する認識が必ずしも一致していないケースは少なくない。
もし、このアクティビティカードの概念を、オフィス環境ではなく「建設現場の活動」に応用し、「安全に集中して作業する」「効率的に資材を運搬する」「適切な休憩を取る」といった、現場特有の具体的なシーンをカード化すれば、現場の働き方に対する要望を明確に把握し、改善点を建設的に議論するための強力なツールとなり得る。
例えば、「現場監督向け」のカード、「職人向け」のカードといった形で具体的なニーズ(例:資材待ち時間を短縮する、昼食時に静かに休めるスペースを確保する)を洗い出すことで、生産性の向上や離職防止に直結する環境整備が可能となる。現状、このカードはオフィスや庁舎向けが中心であるが、同社は病院や都市計画への活用方針も示しており、多様な環境のニーズに対応できるよう進化を続ける見込みである。建設業が直面する2025年問題や人手不足の課題に対し、現場の環境を「なんとなく」ではなく、「具体的な活動」を軸に改善していくこの手法は、今後のチームマネジメントや人材定着戦略における有効なヒントとなることは明白である。
まとめ
竹中工務店が開発・活用を広げるアクティビティカードは、顧客の要望を明確化し、建設的な議論を促進するうえで卓越した効果を発揮するツールである。特別な知識を要さず、直感的に理想の働き方を選び取れるこの手法は、オフィスや大学、自治体庁舎といった整備案件で100件を超える実績を上げ、CASBEEウェルネスオフィス評価マニュアルにも掲載されるなど、外部からの評価も高い。建設業界が抱える働き方やコミュニケーションの課題に対し、本カードの根底にある「活動(アクティビティ)を定義することで、ニーズを可視化し、関係者の意思疎通を円滑にする」という考え方は、現場の生産性向上や若手育成、チームマネジメントを前進させるうえで、極めて重要な示唆を提供するものと認識する。
