日本の建設業における担い手確保の新たな地平:現場を支える職人の未来

建設業界は、戦後の豊富な建設投資に支えられ、他産業から流入する労働力を受け入れながら成長してきました。しかし、バブル崩壊後の投資抑制とともに就業者数は減少し、官民の投資が回復しつつある現在も、その減少に歯止めがかかっていません。特に、高齢化の進展と熟練層の離脱が続く中で、業界は従来の枠にとらわれない新たな視座で担い手の確保・育成策を展開する必要に迫られています。法政大学社会学部の惠羅さとみ准教授は、日本の建設労働市場が質的な変容を遂げた背景として、1990年代後半から2000年代にかけての経済政策転換と建設投資の大幅な減少を挙げ、ダンピング受注の横行や、雇用を切り離す動きから生じた「一人親方化・個人請負化」の進展を指摘しています。惠羅准教授は、日本を米国と比較して「保護されない労働市場」と定義しており、専属的な技能者も正規雇用を前提とせず、仕事量が繁閑で左右される請負契約に基づく働き方が主流であると説明しています。これまで技能育成の機能を果たしてきた「親方制度」は、法令などで制度化されていない「インフォーマルな育成システム」であり、近代的な見習い制度と労働協約に裏打ちされた米国のユニオン主体の職業訓練校とは対照的でした。この雇用の外部化の進展に伴い、技能育成は置き去りにされ、旧来の親方制度は機能不全に陥っています。しかし、技能者の人手不足と高齢化が深刻化する中で外国人就労者の受け入れは加速しており、2027年度に開始される「育成就労制度」によって、中長期的なキャリア形成と技能育成の重要性が格段に増しています。惠羅准教授は、個社ごとの労働力「囲い込み」の懸念を示しつつ、将来的な外国人材の大量就労を見据え、技能育成は「集団的に取り組むしかないフェーズに入っている」と強調されており、職種別の集団的な枠組みでキャリアアップの道筋を進めるべきだと提唱しています。

「保護されない労働市場」という日本の建設業の構造的背景

日本の建設業界は、高度経済成長期には地方からの出稼ぎ市場として、またバブル崩壊後も公共投資に下支えされ、他産業からの失業者の受け皿として拡大してきました。1997年には建設業就業者がピークの685万人に達し、この量的拡大と並行して「重層下請構造」が発展しました。80年代には、元請の経営効率化の観点から下請による「責任施工」が進展し、元請から下請への機能移転が進む中で、技術面などの管理機能も下請が担うようになりました。

しかし、転換点が訪れたのは1990年代後半から2000年代にかけての「聖域なき構造改革」というスローガンに代表される経済政策の転換期でした。この時期に建設投資が大幅に減少し、労働市場は質の面で大きく変容しました。従来のように仕事量が保証されず、競争市場としての色合いが濃くなる中で、ダンピング受注が横行するようになりました。この経営の不安定化は、専門工事会社において雇用を切り離す動きを顕著にさせました。社会保険加入など労働関係法令の規制逃れを目的として、偽装請負的な形態を含む「一人親方化・個人請負化」が推進されたのです。

惠羅准教授は、米国との比較において、日本の建設業が「保護されない労働市場」と定義できると説明しています。これは、専属的に従事する技能者であっても正規雇用が前提とされず、仕事量は繁閑によって大きく左右されることを意味します。給与として固定的に得られるのではなく、重層構造の中での請負契約に基づき、まさに**「職人としての腕」で直接稼ぐ**という構造が定着しました。このような背景が、現場で働く皆さんの雇用の不安定さや、一人親方として働く機会が多い現状に繋がっています。

旧来の育成システムの機能不全と新たな育成の必要性

日本の建設業において、これまで労務供給や技能育成の機能を担ってきたのは「親方制度」であると惠羅准教授は指摘します。しかし、この制度は労使関係という概念が希薄な日本の状況下で、請負関係に左右される構図となっていました。結果として、親方制度をベースとする「インフォーマルな(法令などで制度化されていない)育成システム」が主流であり、実質的なスキル形成は現場での「見よう見まね」に頼る部分が大きかったのです。その評価や処遇も、公的な制度で基礎付けられているわけではありませんでした。これは、近代的な見習い制度と労働協約が結びつき、労使間のパートナーシップに基づきユニオン主体の職業訓練校が運営されてきた米国とは対照的です。

構造改革の時期以降、雇用の外部化、すなわち一人親方化や個人請負化が進む中で、技能育成は置き去りにされた格好です。旧来的な親方制度は町場の現場を中心に機能不全となり、その技能育成の機能も弱まってしまっています。

集団的な枠組みでのキャリア形成への転換

しかし、技能者の人手不足と高齢化が顕在化する中で、業界は転換期を迎えています。特に、外国人就労者の受け入れが加速しており、2027年度に「育成就労制度」が開始されると、既存の特定技能制度と一体的に運用されることで、中長期のキャリア形成を促す方向へとシフトします。これにより、技能育成の重要度が格段に増すことになります。

惠羅准教授は、集団的な労使関係が存在せず、競争市場を前提とする日本の現状では、労務供給や技能育成の面で個社ごとに労働力の「囲い込み」を助長することになりかねないと懸念を示しています。将来的な外国人材の大量就労も念頭に置き、「(技能育成を)集団的に取り組むしかないフェーズに入っている」と指摘しています。すなわち、個々人の努力や、企業単位の現場育成だけではなく、職種別の集団的な枠組みを通じてキャリアアップの道筋を進めるべきであると主張しています。これは、職種ごとの労働市場が横のつながりを持ち、より広範な知識や技術が共有され、体系的に学べる機会が増えることを意味します。

業界全体の変革期と個人の可能性

このような認識のもと、一部の専門工事業団体や元請・下請を含む建設会社では、すでに技能者の中長期のキャリア形成を視野に入れた教育・訓練プログラムを先んじて展開する動きも出てきています。これらの取り組みは、短期的には個社の労働力囲い込みを目的とする側面があったとしても、多くの動きが重なることで、業界全体を変革する大きなうねりとなる可能性を秘めています。

これからの建設業界は、これまでのインフォーマルな慣習に依存するのではなく、フォーマルな制度として新たな育成システムをいかに構築していくかという、業界側の構想力が問われる段階に差し掛かっています。これは、単に人材を「確保」するだけでなく、質の高い技能者を安定的に育成し、業界全体の持続可能性を高めるための不可欠な課題です。

現場で働く私たち職人一人ひとりが、この変革期において担う役割は非常に重要です。自身の技術を磨き続けることはもちろん、職種別の団体や、集団的な取り組みに積極的に関心を持ち、参加していく視点がこれまで以上に求められます。新たな育成システムが確立されることで、職人としての専門性がより適切に評価され、中長期的な安定とキャリアアップが実現される未来が期待されます。業界を支える担い手として、私たち自身が未来を切り拓く主役となる意識を持つことが、これからの建設業界の発展に繋がるでしょう。

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