東京都は1月17日、杉並区などを通過するトンネル式調節池「神田川・環状七号線地下調節池」において、都民を対象としたインフラツアーを開催した。
このツアーには子供を含む28人が参加し、通常は立ち入ることのできない地下約40メートルの巨大な管路内を見学したほか、その空間を利用したプラネタリウム鑑賞が行なわれた。
当該施設は、神田川、善福寺川、妙正寺川の3河川から洪水を約54万立方メートル貯留する能力を有し、地域住民を水害から守る重要な役割を担っている。
今回のツアーは、こうした地下調節池の役割を広く周知することを目的としており、今年1月から3月にかけて計12日間開催される予定である。
参加者は取水施設の見学や操作室での説明を受けた後、実際に地下空間へ降り、コンクリートの管路内に投影された星空を鑑賞するという希少な体験を通じ、都市インフラへの理解を深めた。
Q.なぜ行政は子供たちに「地下インフラ」を見せるのか?
東京都の担当者は今回のツアーの狙いについて、「水害を含めて災害が増えるなか、まちの安全を守っているインフラの存在を知ってもらいたい」と述べている。
しかし、この言葉の背景には、単なる防災意識の啓発にとどまらず、建設業界全体が抱える「深刻な人手不足」と「次世代への職業観の醸成」という、より長期的な課題解決への意図が見え隠れする。
建設業、特に土木インフラの仕事は、完成すれば地図に残る壮大な仕事である一方、その成果物の多くは地下や山間部に存在し、日常生活の中で子供たちの目に触れる機会は極めて少ない。
目に見えない仕事は、職業選択の対象として認識されにくいという構造的な弱点がある。
今回、地下40メートルという非日常空間に子供たちを招き入れたことは、まさにこの「不可視性」を打破する試みである。
巨大なコンクリート構造物を目の当たりにし、そのスケールに圧倒されるという原体験は、子供たちの記憶に深く刻まれる。
教科書で学ぶ知識ではなく、五感で感じる迫力こそが、「すごいものを作りたい」「人々の生活を守りたい」という将来の職業的動機づけ(キャリア教育)につながる種まきとなる。
行政が主導してこのような場を設けることは、将来的な建設技術者の母数を確保するための、極めて重要かつ戦略的な「初期教育」の一環と捉えることができる。

管路の上部に映し出した星座などを鑑賞した
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q.施設の実績は業界のイメージ向上にどう寄与するか?
今回公開された「神田川・環状七号線地下調節池」は、内径12.5メートル、総延長4.5キロメートルという圧倒的な規模を誇り、第1期工事の完成から約30年間で合計47回の取水実績をもつ。
特に2019年10月の台風19号上陸時には、49万3500立方メートルもの洪水を貯留し、下流部の壊滅的な被害を未然に防いだ。直近では2025年7月にも稼働しており、現代の都市防災において不可欠な存在となっている。
こうした具体的な数字と実績は、建設業が「社会の守り手」であることを雄弁に物語る最強のコンテンツである。
採用活動や若手育成の現場において、建設業はしばしば「3K(きつい・汚い・危険)」という旧態依然としたイメージで語られがちである。
しかし、今回のツアーのように、高度な技術の結晶であるインフラが実際に数十万人の命と財産を守ったという事実を可視化することは、そのネガティブなイメージを払拭し、「誇り高い仕事」「社会貢献度の高い仕事」というポジティブなブランドイメージへと転換させる力をもつ。
採用難に悩む建設企業にとって、自社の技術がいかに社会に役立っているかを具体的に語ることは、求職者の心を動かすための必須条件である。
東京都のこの取り組みは、業界全体に対して「実績を隠さずに見せること」「社会的意義を堂々と伝えること」が、結果として最も効果的な採用ブランディングになるという事実を示唆している。
Q.「プラネタリウム」という手法から企業は何を学ぶべきか?
今回のツアーで最も注目すべき点は、無機質な地下トンネルを「プラネタリウム」に変貌させたという柔軟な発想である。
参加者はマットに寝そべり、管路の上部に投影された星空を見上げるという、他では味わえない感動体験を共有した。
これは、「インフラの説明会」という堅苦しい枠組みを取り払い、参加者を楽しませるエンターテインメントへと昇華させた好例である。
中小建設企業が採用活動や地域住民向けの見学会を行なう際、どうしても技術的な説明や施工手順の解説に終始してしまい、相手の関心を引ききれないケースが散見される。
しかし、今回の事例が示すのは、少しの工夫と演出によって、専門的な現場が魅力的な空間に変わり得るということだ。
例えば、夜間のライトアップを行なったり、VR技術を用いて完成後の姿を体験させたりするなど、相手の感情に訴えかける「体験」をデザインすることが、企業のファンを作り、ひいては人材確保につながる。
また、こうしたユニークな取り組みはメディアに取り上げられやすく、企業の知名度向上にも寄与する。
人手不足が加速するなか、待っているだけでは人材は集まらない。
「どうすれば人が集まるか」「どうすれば建設業に興味をもってもらえるか」を考え、既存の枠にとらわれない発信を行なう姿勢こそが、これからの建設経営者に求められる資質であるといえる。
地下の星空は、業界の採用・教育戦略における新たな可能性をも照らし出している。

まとめ
東京都のインフラツアーは、単なる施設公開を超え、建設業の社会的意義を次世代に伝える高度な教育機会であった。
子供たちに感動と驚きを与えることは、10年後、20年後の業界を支える人材を育むことと同義である。
無料で求人募集や協力会社の募集ができる、建設業向けマッチングサイト『建設円陣』はコチラ↓(バナーをクリック!)
