日本建築家協会(JIA)は、2025年度のJIA日本建築大賞および優秀建築選の入賞作品を決定しました。
応募総数232作品の中から大賞に選ばれたのは、高橋一平氏(高橋一平建築事務所)による「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」(茨城県行方市)です。
この作品は、かつて「水の科学館」として利用されていた既存施設を大規模改修し、動物との触れ合いや市民交流の拠点として再生させたものです。
また、優秀建築選には「全日本海員組合本部会館改修」や「暖居」、「伊豆市津波避難複合施設 テラッセ オレンジ トイ」など3作品が選出されました。
一見するとデザインや設計に関するニュースですが、ここには建設業における「人材育成」や「プロフェッショナルとしての姿勢」に関する極めて重要なヒントが含まれています。
本記事では、受賞者や審査委員長の言葉を紐解きながら、現場従事者の教育や採用に活かせる視点を解説します。
Q. 大賞受賞者の姿勢から、若手社員に何を教えるべきでしょうか?
今回の大賞受賞者である高橋一平氏は、受賞後のコメントで「僕は常にチャレンジャー。至らなかったところは更新していかなければならない」と述べました。
この言葉は、建設現場で働く若手社員や職人に伝えるべき最も重要なマインドセット(心構え)といえます。
建設業の現場では、技術の習得には長い時間がかかります。しかし、ある程度の仕事を覚えると、そこで成長が止まってしまうケースも少なくありません。
「言われた通りにやればいい」「今のやり方で問題ない」という現状維持の思考は、企業の競争力を低下させる要因となります。
高橋氏のように、一つの成果を出した後でもなお「チャレンジャー」であり続け、自らの不足を認めて「更新」しようとする姿勢こそが、プロフェッショナルの条件です。
社内研修やOJTの場において、技術的なノウハウだけでなく、こうした「学び続ける意志」の重要性を説くことが、自律的に成長する人材を育てる第一歩となります。

高橋氏
※画像は建設通信新聞さまからお借りしています。
Q. 「金太郎飴のような建築」という言葉は、現場教育にどう応用できますか?
高橋氏は自身の建築観について、「建築や都市がいつどこで途中のまま終わっても、金太郎飴的にその断面に建築の原理が見えるというようなことを目指している」と語っています。
これを施工現場の文脈に置き換えると、「どの工程、どの細部を見ても、その仕事の品質とプライドが宿っている状態」と言い換えることができます。
若手教育において課題となるのが、見えない部分での手抜きや、細部への配慮不足です。
しかし、真に評価される現場監督や職人は、仕上げ材で隠れてしまう下地の処理や、仮設の養生一つにもこだわりをもっています。
「金太郎飴」の例えを用いながら、「どこで切っても(どこを見られても)、プロとしての原理原則が貫かれているか?」と問いかけることは、品質管理に対する意識を高める有効な指導法となります。
全体像だけでなく、日々の小さな作業の一つひとつが全体の評価を形作るという意識を植え付けることが重要です。
Q. 顧客との関係構築において、どのような指導が必要ですか?
小泉雅生審査委員長は、今回の優秀作品について「クライアントとうまく二人三脚で並走、あるいはクライアントの力を引き出しているものばかりだった」と総括しました。これは、現代の建設業に求められる「顧客対応力」の本質を突いています。
かつての現場教育では、「発注者の言うことを聞く」という受け身の姿勢や、逆に「素人は黙っていろ」という職人気質が是とされることもありました。
しかし、これからの時代に求められる人材は、発注者と同じ目線に立ち、対話を通じて共にプロジェクトを進める「パートナーシップ」を築ける人物です。
社員教育においては、単なる接遇マナーだけでなく、「顧客の要望の背景にある真意を聞き出すヒアリング能力」や、「専門家としての知見を活かして、顧客の潜在的な力を引き出す提案力」を強化するプログラムが必要です。
顧客と共に走る「二人三脚」の姿勢を評価制度に組み込むことも、社員の意識変革につながります。
Q. これからの教育で「複合的な視点」をどう養うべきですか?
大賞を受賞した「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」は、動物園、市民活動、教育、展示といった複合的な機能をもっています。
また、伊豆市の施設も津波避難と日常利用を兼ね備えています。このように、現代の建築物は単一の目的ではなく、多様な役割を担うようになっています。
現場に従事する社員に対しても、自分の担当工種や専門分野だけに閉じこもるのではなく、建物全体が社会でどのような役割を果たすのかという「広い視野」をもたせる教育が必要です。
例えば、定期的に他部署との交流会を設けたり、完成後の施設がどのように使われているかを見学させたりすることで、自分の仕事が社会とどう繋がっているかを実感させることができます。
こうした経験は、仕事への誇り(エンゲージメント)を高め、離職防止や定着率の向上にも寄与するはずです。

霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ (撮影:高橋一平建築事務所)
※画像は建設通信新聞さまからお借りしています。
Q. 「周辺環境に負けていく建築」という視点は、リーダー育成にどう役立ちますか?
審査委員長の言葉にある「建築が過度に強くならず、周辺環境との関係で少し負けていく建築の在り方」という表現は、非常に示唆に富んでいます。これはデザインの話だけでなく、組織におけるリーダーシップ論としても解釈可能です。
現場監督や職長といったリーダー層を育成する際、「俺が俺が」と自己主張ばかり強く、周囲を力でねじ伏せるようなタイプは、今の時代には馴染みません。
むしろ、周囲の環境(=チームメンバーや協力会社、近隣住民)の特性を理解し、あえて自分が一歩引くことで全体の調和を生み出す「サーバントリーダーシップ」や「協調型リーダーシップ」が求められています。
「負ける」ということは、弱さではなく、周囲を生かすための高度な戦略であると教えることで、若手リーダーのマネジメント能力は大きく向上します。独りよがりな強さではなく、環境に溶け込み全体最適を図れる人材こそが、現場を円滑に運営できるのです。
Q. 改修案件の評価から、今後採用すべき人材像はどう変わりますか?
今回の大賞作品や優秀建築選に「改修」プロジェクトが多く選ばれたことは、建設市場におけるストック活用の重要性が増していることを示しています。これに伴い、採用戦略も見直しが必要です。
新築工事であれば、図面通りにゼロから組み上げる能力が重視されますが、改修工事では「既存の状態を読み解く力」や「予期せぬ事態への臨機応変な対応力」が不可欠です。
したがって、採用面接や人材要件の定義においては、マニュアル通りの対応ができる几帳面さだけでなく、現場の状況に合わせて柔軟に判断できる応用力や、解体と新設の狭間で生じる問題を解決する粘り強さをもつ人材を評価する必要があります。
また、中途採用においては、リノベーション特有の施工管理経験をもつ人材を積極的に確保することが、企業の技術力を底上げする鍵となります。
まとめ
2025年度のJIA日本建築大賞の結果は、単なる建築デザインの優劣だけでなく、これからの建設業に従事する者がもつべき「心構え」と「スキル」を浮き彫りにしました。
高橋氏の「常に更新し続ける姿勢」や、審査員が評価した「顧客との共創関係」は、まさに人材育成の指針となるものです。
また、採用においては、変化する市場に対応できる柔軟性と対話力をもった人材を見極めることが重要です。
一流の建築家たちが示した流儀を自社の教育に取り入れ、次世代を担う現場のプロフェッショナルを育て上げてみてはいかがでしょうか。
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