建設業における「入社3年目」の重要性と課題とは
東亜道路工業は、入社3年目の社員を対象とした研修において、従来の社内研修とは一線を画す新たな取り組みを実施した。同社は今月20日から4日間の日程で研修を行ない、全国の事業所から41名の社員が参加している。
特筆すべき点は、研修の舞台を東京都港区の本社ではなく、埼玉県秩父市に移し、自治体や異業種と連携して実施したことだ。
研修2日目からは秩父市の地場産業センターを拠点とし、西武鉄道や秩父地域おもてなし観光公社、秩父市役所などの協力を得て、地域課題の解決に向けたグループ討議を行なった。
参加した社員は「魅力ある地域に根差した公園の開発」や「住む人と訪れる人が豊かさを共有できる道路(街)の提案」といったテーマに取り組み、最終的にその成果を発表している。移動手段には西武鉄道の観光列車「52席の至福」を貸し切るなど、特別感のある演出も盛り込まれた。
本稿では、この事例から建設業における人材育成と地域貢献のあり方を紐解く。

秩父地域の課題解決に向け議論を交わした
※画像は日刊建設工業新聞さまからお借りしています。
Q. なぜ「入社3年目」に焦点を当てた大規模な研修を行なうのか?
建設業界に限らず、入社3年目は「若手の定着」における最大の分水嶺と言われる時期だ。業務の基礎を覚え、現場での動き方に慣れてくる一方で、自身のキャリアに対する迷いやマンネリが生じやすいタイミングでもある。
東亜道路工業が実施した今回の研修は、単なる知識の習得にとどまらず、社員の思考力や発想力を高めると同時に、モチベーションアップによる定着を図ることを明確な目的としている。
従来の研修は本社で行なわれていたが、今回は初めて自治体らと連携し、本社以外の場所で実施された。日常の業務環境から物理的に離れ、観光列車での移動という非日常的な体験を共有することで、同期との連帯感を強め、会社への帰属意識を高める狙いが見て取れる。
建設業における慢性的な人材不足の中で、若手社員の離職防止は経営上の最重要課題の一つだ。このように「場所」と「内容」を刷新した研修は、社員に対し「会社から期待されている」というメッセージを伝える有効な手段となり得る。
Q. 現場仕事の技術研修ではなく、なぜ「地域課題」を議論させるのか?
本研修の核となっているのは、秩父地域にどのように人を呼び込み、新たな賑わいにつなげるかという議論だ。これは一見、道路建設という直接的な業務とは距離があるように思えるかもしれない。しかし、建設業の本質は単に構造物を作ることではなく、インフラ整備を通じて地域社会を豊かにすることにある。
秩父市などが提示した課題は「魅力ある地域に根差した公園の開発」や「住む人と訪れる人が豊かさを共有できる道路(街)の提案」など、極めて実践的かつ多角的な視点を要するものだった。社員は自らテーマを選び、現地視察や意見交換を行なうことで、図面や仕様書の中だけでは見えてこない「利用者の視点」や「街全体の機能」を肌で感じる機会を得る。
現場監督や職人として日々の施工管理や作業に追われていると、どうしても視野が局所的になりがちだ。しかし、こうした研修を通じて「自分たちの仕事が地域社会の課題解決にどう直結しているか」を再認識することは、仕事への誇りややりがいを醸成するうえで大きな意味をもつ。
技術力だけでなく、課題を発見し解決策を提案する「思考力」や「発想力」を養うことは、将来のリーダー層に不可欠な素養である。
Q. 一企業に留まらない「官民連携」の意義とは?
今回の研修には、秩父市役所や西武鉄道、秩父地域おもてなし観光公社、秩父札所連合会といった多様な組織が協力している。一企業の社員研修に対し、これほど多くの外部組織が関与するのは異例ともいえるが、そこには受け入れ側である地域にとっても切実な事情と期待がある。
研修会場を訪れた秩父市の清野和彦市長は、「秩父は課題が多い地域だ。少子高齢化のスピードが埼玉県の平均よりも15年早い」と現状への危機感を吐露している。そのうえで、「私たちが新しいアクションをすることが県全体、ひいては全国の過疎地にとって役に立つはずだ」と述べ、外部の視点を取り入れることへの強い期待を示した。
建設業は、地方創生においてハード・ソフトの両面で主役となり得る産業だ。企業側にとっては、若手社員に生きた教材としての「地域の課題」を提供でき、自治体側にとっては、企業の若く柔軟な発想をまちづくりに取り入れることができる。東亜道路工業の事例は、社員研修という枠組みを超え、建設業が地域社会とどのようにパートナーシップを築いていくべきかを示す一つのモデルケースといえるだろう。
市長が「皆さまの立場から携わっていただいたことに心から感謝申し上げる」と述べた通り、企業と地域が互いにリソースを提供し合う関係性は、今後の建設業のブランド価値向上にも寄与するはずだ。

※画像はイメージです。
Q. 大規模な予算がない中小企業でも参考になる点は?
観光列車の貸し切りや大規模な連携は、大企業ならではの施策かもしれない。しかし、その本質的な要素は中小企業でも十分に取り入れ可能だ。重要なのは「現場以外の場所で思考する時間を設けること」と「仕事の社会的意義を再確認させること」の2点にある。
例えば、地元の商工会議所や自治体が主催する勉強会への参加を促したり、社内会議のテーマとして「自社の施工が地域の安全や利便性にどう貢献しているか」を若手に発表させたりすることも有効だ。
また、近隣の異業種企業と合同で小規模な研修を行なうことも、視野を広げるきっかけとなる。
東亜道路工業が目指した「モチベーションアップでの定着」は、規模の大小にかかわらず、社員への投資の工夫次第で実現できる。ただ漫然と現場経験を積ませるだけでなく、自社の仕事が社会の中でどのような役割を果たしているのか、若手社員が自ら考え、議論する場を設けることこそが、次世代を担う人材を育てる鍵となるのだ。
まとめ
東亜道路工業の事例は、社員研修を単なる教育の場としてだけでなく、地域貢献と企業ブランディングの機会として昇華させた点で非常に示唆に富んでいる。秩父市という具体的なフィールドで、少子高齢化や観光振興といったリアルな課題に向き合う経験は、若手社員にとって得難い財産となるだろう。
建設業が直面する人材不足と、地方が直面する過疎化。この二つの課題に対し、官民が連携して解を導き出そうとする姿勢は、業界全体のイメージアップにも繋がる取り組みだ。技術の伝承だけでなく、地域を支える「人」としての成長を促す視点が、これからの建設業には求められている。
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