“言った・言わない”を防ぐ 建設業の契約管理術

建設業界では近年、「契約トラブル」への備えの重要性が高まっている。特に中小建設会社や個人事業主では、長年の付き合いや信頼関係を理由に、詳細な契約書を交わさず工事を進めるケースも少なくない。しかし、資材価格の高騰、人手不足、工期遅延、追加工事の増加などを背景に、「言った・言わない」の争いが発生しやすい状況となっている。

実際、国土交通省も建設業法に基づき、請負契約の適正化を継続的に呼びかけている。建設工事は金額が大きく、工期も長期化しやすいため、契約内容が曖昧なまま工事を進めることは、会社の利益や信頼関係にも影響を与える可能性がある。

特に近年は、元請・下請間のトラブルだけでなく、施主との認識違いによる紛争も増えている。中小企業ほど法務専門部署を持たないため、現場任せの対応になりやすく、結果として大きな損失につながるケースも珍しくない。

追加工事をめぐる相談が増えている

建設現場で特に多いのが、「追加工事」に関するトラブルである。

例えば、工事開始後に施主から仕様変更を依頼された場合、本来であれば追加費用や工期変更について書面で再契約を行なう必要がある。しかし現場では、「とりあえず進めておいて」「後で調整する」という曖昧なやり取りのまま施工が進んでしまうことがある。

その結果、工事完了後になって「認識に違いがあった」と言われ、代金回収が難航するケースが発生している。

特に中小企業では、「関係を悪くしたくない」「仕事を切られたくない」という心理から、請求について慎重な対応になる事例も多い。

また、近年は資材価格の高騰も問題となっている。鋼材、木材、燃料費などの価格変動が激しく、契約時点では想定していなかったコスト負担が発生することも珍しくない。契約書に価格変動時の取り扱いが記載されていない場合、施工会社側の負担が大きくなる可能性がある。

口約束文化が残る建設業界の課題

建設業界では昔から、「信用第一」の文化が根強く残っている。長年付き合いのある元請会社や取引先との間では、電話一本で工事が始まることもある。

しかし、世代交代や経営環境の変化により、従来の慣習に加えて、明文化の重要性も高まっている。

担当者が退職した途端に話が伝わらなくなるケースや、会社方針の変更によって条件変更が発生するケースもある。さらに、働き方改革の影響で現場管理が細分化され、関係者が増えたことで認識のズレも起こりやすくなっている。

特に問題となるのが、「契約内容を現場担当者しか把握していない」状態である。

工期、支払い条件、追加工事、責任範囲などが社内共有されていない場合、トラブル発生時に会社として統一した対応が取れなくなる。結果として、認識違いが長期化する場合もある。

契約書は「会社を守る保険」になる

契約書というと、「堅苦しい」「面倒」というイメージを持つ経営者も少なくない。しかし実際には、契約書は相手を縛るためだけでなく、自社を守るための重要な防御策である。

例えば、以下の内容を明文化しておくだけでも、トラブル回避効果は大きく変わる。

・工事範囲
・支払い条件
・工期
・追加工事の扱い
・資材高騰時の対応
・遅延時の責任範囲
・瑕疵対応期間
・中止時の精算方法

これらを事前に明記しておけば、万が一問題が発生しても、感情論ではなく契約内容を基準に話し合うことができる。

また、近年では電子契約サービスの導入も進んでいる。建設業界でも、クラウド型契約サービスを利用する企業が増加しており、印紙代削減や契約管理の効率化につながっている。

紙管理中心だった企業でも、契約データをクラウド化することで、過去契約の検索や共有が容易になり、現場と事務所の連携強化にもつながっている。

下請法や建設業法への理解も重要

契約トラブルを防ぐためには、法律への理解も欠かせない。

建設業法では、請負契約書面の交付義務が定められており、工事内容や請負代金などを明記する必要がある。さらに、下請代金支払遅延等防止法、いわゆる「下請法」への対応も重要となる。

近年はコンプライアンス意識の高まりにより、元請企業側も契約管理を厳格化している。反対に、下請側も契約内容を十分確認しないまま着工すると、条件確認が不十分になる可能性がある。

特に注意したいのが、「一式工事」という曖昧な表記である。詳細範囲が不明確な契約は、後々の追加請求や責任範囲で認識違いにつながりやすい。

また、工期短縮要求や無理な工程変更についても、記録を残すことが重要である。メール、LINE、議事録など、やり取りを証拠として残しておくだけでも、トラブル時の対応力は大きく変わる。


※画像はイメージです。

中小建設会社こそ「契約管理体制」の見直しを

大手企業では法務部門が契約確認を行なうことが一般的だが、中小企業では社長や現場監督が兼任しているケースが多い。

しかし今後は、「契約管理」そのものが経営力の一部になる時代といえる。

例えば、以下のような体制整備は比較的取り組みやすい。

・契約書テンプレートの統一
・追加工事申請書の作成
・口頭指示の書面化
・LINEやメール履歴の保存
・契約確認フローの整備
・着工前打合せ記録の作成

こうした取り組みは、一見すると手間が増えるように見える。しかし実際には、後から発生するトラブル対応や未払い交渉に比べれば、はるかに低コストである。

特に人手不足が続く建設業界では、「利益の出る現場」を維持することが重要になる。契約管理の差が利益面に影響する場合がある。

現場力だけでなく、「守りの経営」が求められる時代になっている。

まとめ

建設業界では今後も、資材高騰、人手不足、法改正などによって契約トラブルのリスクが高まると考えられる。特に中小建設会社では、「昔ながらの口約束文化」から脱却し、契約内容を明文化する意識がこれまで以上に重要になるだろう。

契約書は単なる形式ではなく、会社の利益と信用を守る重要な経営ツールである。現場が忙しい時代だからこそ、「契約を整える力」が会社を守る時代に入っている。

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