建設業界では現在、資材価格高騰と職人不足が同時に進行しており、多くの中小企業が利益確保に苦しんでいます。その中で、「まずは人件費を削る」という経営判断を行なう企業も少なくありません。しかし近年、この“人件費カット型経営”が、むしろ会社の利益を圧迫する原因になり始めています。
背景にあるのは、建設業を取り巻く制度変更と人材市場の変化です。特に2024年以降は、時間外労働の上限規制が本格適用され、従来の長時間労働頼みの現場運営が難しくなりました。さらに公共工事では、労務単価の引き上げが継続的に行なわれており、「安く人を使う」こと自体が制度と逆行し始めています。
労務費削減が利益悪化を招く構造
一見すると、人件費を減らせば利益は増えるように見えます。しかし実際には、職人の離職や採用難によって現場が回らなくなり、結果的に利益率が悪化するケースが増えています。
例えば、経験豊富な職人が退職すると、施工品質や作業効率が落ちるだけでなく、若手教育も停滞します。さらに、急な人員不足を補うために高額な応援外注を使うケースもあり、かえってコスト増につながります。
また、現在は人材不足の影響で、待遇の悪い会社から人が流出しやすい環境です。以前なら定着していた職人も、給与・休日・福利厚生を比較して転職する流れが強まっています。
つまり今の建設業では、「人件費を削るほど利益が残る」のではなく、「人材が定着する会社ほど利益が安定する」構造へ変わりつつあるのです。

※画像はイメージです
公共工事でも“適正な労務費”が重視され始めた
国土交通省は近年、建設技能者の処遇改善を重要課題として掲げています。その一環として、公共工事設計労務単価は継続的に上昇しています。
これは単なる賃上げ推奨ではなく、「適正な人件費を確保しなければ建設業そのものが維持できない」という危機感の表れでもあります。
一方で、下請け構造の中では、依然として値下げ圧力が残っています。その結果、元請けから十分な利益を確保できず、人件費を削るしかない中小企業も存在します。
しかし現在は、法令順守や安全管理、労働環境改善への要求も年々強まっています。低単価受注を続けながら、さらに人件費まで削減する経営は、制度面から見ても持続が難しくなっているのです。
利益を残す会社は“削る場所”が違う
利益改善に成功している建設会社は、人件費ではなく「無駄な業務コスト」の削減に取り組んでいます。
例えば、施工管理アプリやクラウド型工程管理ツールを導入することで、現場確認や書類作成時間を短縮する企業が増えています。「LINE」を活用した写真共有や連絡効率化もその一つです。
また、見積管理や原価管理を徹底することで、「赤字現場を早期発見する体制」を整える会社も増加しています。
つまり現在の建設業では、“人を減らす”より、“非効率を減らす”方向へ経営が変化しているのです。
これからは「人件費=投資」の考え方が必要
今後さらに職人不足が進めば、技能者を確保できる会社と、そうでない会社の差は一層広がります。
特に若手人材は、給与水準だけでなく、休日数や教育制度、働きやすさを重視しています。そのため、最低限の待遇しか用意できない企業は、採用市場で不利になりやすくなります。
一方で、人材育成や待遇改善に投資している企業は、長期的に見れば離職率低下や品質安定によって利益を確保しやすくなります。
人件費を「削減対象」と見るか、「利益を生む投資」と考えるか。この視点の違いが、今後の建設会社経営を大きく左右するでしょう。

まとめ
職人不足と制度改革が進む現在の建設業では、人件費削減を中心とした経営モデルが限界を迎えつつあります。
これからは、適正な労務費確保と業務効率化を両立しながら、利益を残す経営への転換が求められます。単純なコストカットではなく、「人材が定着する会社づくり」が結果的に安定経営につながる時代になっているのです。
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