🏗️ なぜこの道に入ったのか? 「レールに乗った」と笑う、その先にあった本音
加藤板金工業のルーツは1974年(昭和49年)にさかのぼります。もともとは父の旧姓を冠した「千羽ラッキング工業」として操業を開始しました。「ラッキング」とはプラント板金の業界用語で、断熱材の外側を金属板で仕上げる工事のことです。加藤社長が高校卒業後に入社するタイミングで、現在の社名に変更したといいます。
「自然にレールに乗っちゃった感じですね」と加藤社長は笑いながら振り返ります。大学への推薦が来ていたものの、父親に「落ち着かんのんか」と怒られ、19歳でそのまま入社することになりました。
入社当時は「相当嫌だった」と振り返ります。父のもとで働くベテラン職人15〜16名に囲まれ、社長の息子として見られながら技術では一番できない立場に置かれていました。「上の息子やからっていう目で見られながら言われるのが嫌だったですね。昔だから口の悪い人は言うんですよ」と当時を打ち明けます。
それでも指摘されないよう技術を磨き、やがて現場を任されるまでに成長。昔気質の「見て覚えろ」という環境で育った加藤社長は今、「手取り足取り教えています」と語ります。
🔧 プラント断熱とは何か? 知られざる技術の世界
「板金」という言葉から、屋根工事や自動車板金を連想する人も多いかもしれません。しかし加藤板金工業が手がけるのは「プラント板金」と呼ばれる分野です。化学工場、発電所、製紙会社、飲料・食品工場など、極端な高温・低温の流体を扱う産業施設の配管や機器に断熱材を施工し、その上に金属板でカバーをする仕事です。
「板金って言ったら何?ってなるのがほとんどだと思います。建設業の許可を取るときは熱絶縁で申請するんですが、その下に板金があるイメージです」と加藤社長は説明します。同社はかつて板金オンリーでしたが、入社から約10年後に保温工事も自社対応に切り替え、今は両方を手がけています。
特に保冷工事では、施工精度が求められます。液体窒素のような冷媒を扱う配管に隙間があると、空気中の水分が内部で凍結と融解を繰り返し、ウレタン断熱材が劣化して断熱効果を失ってしまうためです。「保冷の方が時間がかかります。テープで完全に密閉しないといけないので。より精密なんですよね」と加藤社長。アイスクリームや冷凍食品を扱う工場など、私たちの身近な食の安全も、こうした職人の精度によって支えられています。
平面の金属板を立体形状に仕上げていくプラント板金は、「頭の中で作る形をイメージする」ことが重要だといいます。「未経験でも始められますし、うちの従業員は手先が器用な人が比較的多いですね」と加藤社長。入社後に少しずつ腕を上げていくことは十分に可能です。
⚠️ 人材難の現実と、それでも続く「自分で考える職人」の育成
中小建設業にとって、若手の確保は深刻な課題です。加藤板金工業もその例外ではなく、これまでさまざまな求人施策を試みてきたものの、なかなか定着には至らなかったといいます。現在は知人からの紹介を中心に採用を続けており、「仕事は順風満帆にある。日本人でつないで、持続的に続けていきたい」と語ります。
従業員はベトナム出身の技能実習生・特定技能外国人2名を含む計7名で、来年1月にはインドネシアから1名が加わる予定のほか、常時現場に入る協力会社2名とともに9名体制で工事にあたっています。
育成に対する考え方は明確です。「基礎は教えますが、あとは自分で考えながら噛み砕いてほしい。社長はこう言うけど自分はこう思う、この差は何だろうって考えながら動いてくれたら、すごくいい」と加藤社長。言われたことをこなすだけでなく、自分なりに仕事を理解しようとする姿勢こそが、職人としての成長につながると考えています。
一人前になるまでは「だいたい5年」ですが、意欲次第では3年でもなれるといいます。「従業員同士は仲がいいし、最近は離職する人もいない」と加藤社長は笑います。
🌱 次世代へのメッセージ──「AIには無理な仕事で、独立だって夢じゃない」
加藤社長は約17年前、父が60歳で急逝したことにより、準備が整わないまま事業を引き継ぎました。「全然継ぐ準備もできていなかった」というその経験が、今の育成と継承への真剣さの原点にあります。
現在は29歳の若手社員が現場を一部担えるようになっており、「あの子がもう少し経験を積んでくれたら、完全に2班作れる。あと2〜3人、一人ずつ育てていきたい」と展望を語ります。
これから建設業界に入ってくる若い人への言葉は、こうでした。
「建設業はしんどいとは思いますけど、この仕事はAIには絶対に無理です。体と頭を使う仕事で、なくなることはない。独り立ちできるレベルになれば、自分で事業を起こすこともできます」
そして最後に付け加えた言葉が印象に残ります。「建設業なんで、怪我や事故だけは気をつけて。働ける間、無事故でいてくれたら」。技術を伝え、仕事をつなぎ、一緒に働く人を守る。その言葉には、30年以上現場に立ち続けてきた職人社長の重みがありました。
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取材を通じて印象的だったのは、加藤社長の「自分で考えながら動いてほしい」という言葉でした。技術を丁寧に伝えながらも、指示待ちではなく自律した職人を育てようとする姿勢。そして最後に出た「無事故で働いてほしい」という一言に、職人としての誇りと、仲間への静かな思いやりが感じられました。