建設業界では、慢性的な人手不足を背景に外国人材の採用が急速に進んでいる。技能実習生や特定技能外国人を受け入れる企業も増え、現場の多国籍化はもはや珍しいものではなくなった。一方で、多くの現場では「言葉の壁」が新たな課題として浮上している。
特に建設現場では、わずかな指示の行き違いが施工ミスや事故につながる可能性がある。安全確認や作業指示、危険回避の声掛けなど、瞬時のコミュニケーションが求められる場面は少なくない。そのような中、株式会社ムクイルが提供を開始した“翻訳グラス”が注目を集めている。
スマートフォンを操作する必要がなく、作業を止めずに多言語コミュニケーションを行なえるという特徴は、建設業界におけるDX活用の一例としても関心を集めそうだ。本記事では、翻訳グラスの特徴や建設現場で期待される活用方法、導入時の注意点について解説する。
翻訳グラスとは何か
『外国人スタッフとの会話を、作業を止めずに行える翻訳グラスを提供開始しました。
音声だけで操作できるため、製造・物流現場でも両手を使ったまま円滑なコミュニケーションを実現します。
スマートフォンを取り出して翻訳アプリを操作する必要がなく、作業中でも自然な会話が可能です。
製造業・物流業・建設業など、多国籍化が進む現場での活用を想定しています。』

引用元:株式会社ムクイル プレスリリース(PR TIMES掲載)
今回発表された翻訳グラスは、音声認識とリアルタイム翻訳機能を組み合わせたウェアラブル機器である。最大の特徴は、両手を使った作業を止めることなく、外国人スタッフとのコミュニケーションを行なえる点にある。
一般的な翻訳アプリでは、スマートフォンを取り出し、画面を操作しながら翻訳を行なう必要がある。しかし建設現場では、高所作業や資材運搬、重機周辺での作業など、常に手がふさがっている状況も多い。スマートフォン操作そのものが安全リスクにつながるケースもある。
翻訳グラスは音声コマンドで操作できるため、現場作業の流れを止めずに会話できる点が特徴だ。また、翻訳結果を視界内に表示することで、周囲の安全確認を維持しながら情報共有を行なえるとしている。
建設現場で増える「伝達ミス」のリスク
建設業界では近年、外国人技能者への依存度が高まっている。特に地方の中小建設会社では、人材確保の観点から外国人材の採用を進めるケースが増えている。
しかし実際の現場では、言語の違いによる課題が多い。
例えば、「この足場には乗るな」「その資材はまだ固定されていない」「重機が旋回するから下がってほしい」といった危険回避の指示は、一瞬で正確に伝える必要がある。意味が曖昧なまま作業が進めば、重大事故につながりかねない。
また、日本語独特の表現も障壁になる。「段取り」「逃げ」「納まり」「開口」など、建設業界特有の専門用語は翻訳が難しく、日本人同士であれば当たり前に通じる言葉でも、外国人スタッフには伝わらない場合がある。
さらに、現場によってはベテラン職人の感覚的な指示に依存しているケースも少なくない。「これくらい見れば分かるだろう」という文化は、日本語に不慣れな技能者にとって大きな負担となる。
翻訳グラスが期待される活用場面
翻訳グラスは、単なる会話補助ツールではなく、安全管理や教育効率向上にも役立つ可能性がある。
まず期待されるのが、安全教育の効率化である。外国人技能者向けの安全教育では、通訳を介した説明や翻訳資料の準備に時間とコストがかかるケースが多い。翻訳グラスを活用すれば、現場での指導内容をリアルタイムで翻訳表示できるため、理解度向上につながる可能性がある。
また、新人教育にも活用が期待される。外国人スタッフは、言葉が分からないことで質問をためらうケースがある。しかし、リアルタイム翻訳があれば、細かな確認をしやすくなり、作業習熟のスピード向上も見込める。
さらに、朝礼やKY活動など、多人数が集まる場面でも活用余地は大きい。危険予知活動では、わずかな認識違いが事故につながるため、多言語での正確な情報共有は重要である。

※株式会社ムクイル様会社ロゴマーク
導入前に確認すべきポイント
一方で、翻訳グラスを導入すればすべての課題が解決するわけではない。
まず確認したいのが、現場環境との相性である。建設現場は騒音が大きく、重機音や風音などが音声認識に影響を与える可能性がある。そのため、実際の現場でどの程度正確に音声認識ができるかを検証する必要がある。
また、通信環境も重要だ。リアルタイム翻訳には安定した通信が必要となるケースが多く、地下や山間部など電波状況が不安定な現場では注意が必要である。
さらに、翻訳精度への過信も避けたい。建設現場では、一文字の違いが事故につながる場合もある。最終的には「指差し確認」「復唱」「ジェスチャー」など、人による確認作業と併用することが重要だ。
コスト面についても慎重な判断が必要となる。中小建設会社にとっては、導入費用や運用コストが負担となる場合もあるため、まずは一部現場で試験導入し、効果を検証する進め方が現実的だろう。

※画像はイメージです。
人手不足時代の建設業に求められる視点
今後の建設業界では、外国人材との共存は避けて通れないテーマになると考えられる。
重要なのは、「外国人だから日本語を覚えるべき」という発想だけではなく、企業側も多言語環境に対応していく視点を持つことだ。実際、製造業や物流業では多言語マニュアルや翻訳システムの導入が進みつつあり、建設業界でも同様の流れが加速する可能性がある。
また、コミュニケーション環境の整備は、人材定着にも直結する。言葉が通じず孤立感を抱える職場では、離職率が高まりやすい。一方で、安心して質問できる環境が整っている企業は、外国人スタッフからの評価も高まりやすい。
翻訳グラスのような技術は、単なる便利ツールではなく、「安全性向上」「教育効率化」「人材定着」を支える基盤の一つとして捉える必要があるだろう。
まとめ
建設業界では外国人材の活用が広がる一方で、言葉の壁によるコミュニケーション課題が深刻化している。特に安全管理が重要な建設現場では、指示伝達の精度向上が大きなテーマとなっている。
株式会社ムクイルが提供を開始した翻訳グラスは、ハンズフリーでリアルタイム翻訳を行なえる点が特徴であり、建設現場における新たなDX活用として注目される存在である。
もちろん、翻訳技術だけに依存するのではなく、現場教育や確認作業との併用は不可欠だ。しかし、人手不足時代の建設業において、多言語対応の仕組みづくりは今後ますます重要になるだろう。
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