🏗️ なぜ表具師の道を選んだのか?原点にある想い
松丸氏が表具の世界に入ったきっかけは、ごくシンプルなものである。父が表具業を営んでいたため、中学生のころから夏休みや冬休みを使ってアルバイト感覚で現場を手伝っていた。「そのままの流れで、この業界に入りました」と松丸氏は淡々と語るが、そこには家業に向き合い続けてきた長い年月がある。
父から代表職を引き継いだのは二十代後半のこと。以来、約二十二年にわたって越谷の地で表具師として仕事を続けてきた。
仕事の面白さに気づいたのは二十代前半、まだ父の下で働いていたころだという。「言い方は悪いけど、汚れていた部屋とか暗くなった部屋が、自分の施工で明るく綺麗な部屋に変わる。そしてお客さんが喜んでくれる」。時にはトイレや洗面所まわりのクロス張り替えで「汚いな」と感じることもある。しかし「汚れているからやる、綺麗になって喜んでもらえる、それが一番のやりがい」だと松丸氏は言う。
🔧うちにしかできないこと──現場が語る強みとは
風流堂表具店の最大の強みは、「工程を省かない」ことに尽きる。簡略化が進む業界の中で、昔ながらのやり方を守り続けているのだ。
ふすまの張り替えを例に取ると、業者によっては古い紙の上からそのまま重ね貼りしてしまうケースもある。しかし風流堂では古い紙を必ず剥がし、「チャチリ」と呼ばれる薄い下貼り紙を三枚から六枚に分けて浮かせ張りし、完全に乾燥させてから本貼りに進む。「他の業者よりも時間がかかる、手間がかかる。なので当然、持ちとか仕上がりにも差が出てくる」と松丸氏は話す。
障子の洗浄も徹底している。框の木部からは茶色いアクが出るため、一本一本裏表をしっかり洗い、アク止め専用の糊を使って紙への染み出しを防ぐ。「材料は高いけれど、そういうところにこだわって使っている」と言う。わかる人にはわかるが、わからない人にはわからない——それが職人の仕事の難しさでもある。
サービス面でも一手間を惜しまない。引き手(ふすまの取っ手部分)の経年劣化はサービスで交換し、建て付けの隙間や開け閉めが重い場合の調整も施工時に無料で行う。玄関ドアのクローザーの音が気になるお客様には、一言断ってから調整してしまうこともあるという。「ニトリじゃないけど、お値段以上のことはいつもしているつもり」という言葉が、この仕事への誠実さを物語っている。
素材選びのアドバイスにも特色がある。見本帳を寝かせた状態で見るのと、壁面に立てた状態で見るのとでは色や柄の印象が大きく変わる。「実際に施工する人間だから、そういう細かいアドバイスができる」と松丸氏。量販店の営業担当では得られない、職人ならではの視点がそこにある。
⚠️和室が消えていく時代に——表具師としての葛藤と信念
和室の減少という時代の流れに対して、松丸氏は複雑な思いを持つ。「和室が残ってくれる方がいいと思うけど、どうしても世の中の流れ的に洋室化は進んでいる」と感じている。ふすまにもふすま紙の代わりにクロスを貼る例が増えており、伝統的な良さが失われていく側面もある。
一方で、和室や障子の持つ機能的な優れた点が十分に知られていないことへの課題意識もある。カーテンと障子はどちらも窓まわりの仕切りという同じ役割を担うが、「カーテンは開け閉めのたびにホコリを舞わせてしまうが、障子紙はホコリが舞いにくい」というメリットがある。空気清浄機を使うような健康意識の高い家庭にとって、和室は「悪くない空間」だというのが松丸氏の見方だ。
また、量販店経由での施工をめぐる現状についても率直に語る。量販店が職人に仕事を回す際には値段が決められており、「それ以上手をかけられない。むしろ手を省かなければならない状況がある」という。こうした状況から距離を置き、自身のお客様には時間と手間をかけた施工を提供し続けることが、松丸氏が選んできた道だ。
🌱「どこに頼めばいいかわからない」方こそ、気軽に相談を
ふすまや障子の専門店は年々減少しており、「どこに頼んでいいかわからない」という声をよく耳にするという。穴が開いたふすまも、桟が欠けた障子も、「直せるものは直すし、どんな状態でも相談してほしい」と松丸氏は言い切る。DIYで途中まで施工して「わからなくなってしまった」という駆け込みにも対応している。
高齢のお客様への対応も積極的だ。照明の交換や、タンス・ベッドの解体・搬出など、表具とは直接関係のない依頼にも、できる範囲で応じてきた。「うちが何でもやってるとわかってくれている近所の方が来てくれる」という信頼関係は、長年の地域密着で築いてきたものである。
「最後まで話を聞いてくれる人は、だいたい頼んでくれる」と松丸氏は話す。専門用語を使わず、自分が客の立場だったらと考えながら説明すること——それが、昔ながらの付き合い方で仕事を続けてきた松丸氏の流儀だ。手を省かず、信頼してくれるお客様と向き合い続ける。その姿勢は、創業以来変わっていない。
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取材を通じて印象的だったのは、松丸氏の「省かない」という一貫した姿勢でした。工程を一つ増やすことの意味を淡々と、しかし確かな言葉で語る姿に、職人の誇りを感じました。「わかる人にはわかる仕事」を続ける表具師の仕事ぶりを、ぜひ多くの方に知っていただきたいと思います。