🏗️ なぜ清掃業を選んだのか?「暇だからやってみれば」から始まった原点
澤田代表が清掃業に踏み込んだのは、22〜23歳の頃だった。きっかけはごく単純なものだ。「仕事を辞めて暇をしていたら、友人から『暇だったらやってみれば』と誘われた。軽い気持ちでアルバイトから始めた感じですね」と、当時を振り返って笑う。
入ってみると仕事の大変さはあったものの、職場の人間関係が良好だったことが続ける力になった。「比較的仲のいい会社だったので、人間関係の面ではとても魅力的でしたね」。辛くても職場の雰囲気が良ければ続けられる——清掃業の現場に限らず、中小企業の現場監督や職人が口々に語るのと同じ感覚だ。
独立のきっかけもまた、自らの野心からではなかった。結婚を機に、当時の社長から「自分でやった方が率がいいから、現場を分けてやるから独立してみたら」と背中を押された。「欲もなかったんですけど、勧められてまあ率がいいんだったらと、軽い気持ちで始めました」。個人事業主として独立したのが25〜26歳の頃。その後、2020年に法人化し、株式会社リアナージュとして現在に至っている。
法人化は採用にも好影響をもたらした。「個人事業主の時はなかなか人が増えなかったんですが、法人にしてからは集まりがちょっと良くなった。会社としての信用度が上がったのが大きかったと思います」。中小建設業にとっても共通するこの「法人格の信頼力」は、採用・受注の両面で今なお重要な要素だ。
🔧 うちにしかできないこと──「手を抜かない」と「一歩先を読む」現場哲学
現在、リアナージュが手がける仕事の約8割は店舗清掃だ。大型スーパーマーケットから小規模な居酒屋まで、幅広い規模の現場に対応している。残る2割が老人ホームや物流施設といった日常清掃の管理業務で、清掃員を雇用してその施設に常駐させる形をとる。大型店舗については、元請け企業との10年以上に及ぶ取引実績があり、下請けとして継続的に信頼を得ている状況だ。
同業他社との差別化について尋ねると、澤田代表は率直にこう語った。「清掃は正直、手を抜いてもわからない仕事なんです。でもうちはそれをしない。真面目にこなすだけじゃなくて、お客様が何を求めているのかを一歩先に読んでから仕事に入ることを心がけています」。
この「相手の意図を読む」文化は、現場リーダーにも徹底して伝えている。「元受けさんとも、現場のお客さんとも、話が食い違うことはある。でもとにかくお客様のことを優先して考えて、こちらの都合と合わなくても、まず受け止めて対応する。それをリーダーにも伝えています」。できるスタッフに責任を与え、権限を委ねながら現場を回すスタイルは、中小建設業の職長管理とも共通する発想だ。
また、従業員が働きやすい環境づくりへの意識も高い。「清掃は夜勤が7割。どうしてもやめがちな仕事。だから、居心地がいい程度に指導するっていうことを気をつけています。まず定着してもらうことが先。能力を伸ばすのはその次」。一人ひとりの成長ペースを長い目で見守るこの姿勢が、スタッフの定着につながっている。
⚠️ 人手不足・夜勤の壁…清掃業が抱えるリアルな課題と、自社の向き合い方
「しんどかった現場はありすぎて出てこない」——そう苦笑しながらも、澤田代表は創業初期の苦労を語ってくれた。当時は2人体制で動いており、夜に出発して翌昼まで帰れないような強行軍もあった。「夕方6時に出て、帰ってくるのが次の日の昼12時とか。普通じゃないなと思いましたけど、もうそういう時代には戻りたくないですね」。
現在も最大の課題は人材の確保と定着だ。求人媒体を活用しているが、応募があっても面接まで至らないケースが多く、「連絡が来ても、メールしても返ってこない、電話してもつながらない。応募だけして連絡が取れなくなる、いわゆる“ゴーストアプリケーション”のような状況」と打ち明ける。夜勤主体の業種の特性上、求職者の間口が狭いという構造的な問題もある。
中小建設業でも深刻な人手不足は変わらないテーマだ。求人広告に費用をかけても面接まで来ない、採用しても数か月で辞めてしまう——こうした悩みを抱える経営者は少なくない。リアナージュが実践するのは、まず仕事を先に受注し、それに合わせて人を配置していくというスタイル。「うちは仕事を増やしてから人っていう流れ。ある意味チキンレースではあるけど、それが自社の傾向です」と澤田代表は言う。
仕事の獲得はこれまで既存の取引先からの流れや紹介が中心だった。しかし「それだけだといつか行き詰まる」という危機感もあり、今後は自社主体で新規の取引先を開拓していく方向性を模索している。ホームページからの問い合わせも時折あるといい、Webを活用した営業基盤の強化が次の課題として浮かび上がっている。
🌱 10年後のビジョン──「誰かが継ぎたいと思える会社」を目指して
「もともと野心がまったくない人間なんです」と澤田代表は笑う。大きくしたいという欲求より、流れの中で会社を作り、流れの中で続けてきた。それでも今、5年・10年先を見据えると、一つ明確なビジョンがある。「自分が引退するとなった時に、外から見た誰かが『あの会社の代表になりたい』と思えるような会社を作りたい」。
息子や娘への事業承継にこだわりはない。「もし子どもたちが客観的に見て、お父さんの会社だったら継いでもいいなと思ってもらえたらうれしい。でも、そのためには会社としてきちんとした人材と売上がなければいけない」。そのために今、人を増やし、現場を整え、基盤を固めることに向き合っている。
若い世代へのメッセージも力強かった。「AIが発達して、なくなる仕事もある時代ですが、清掃は人がしなければできない仕事。人型ロボットが本格登場するまで、この仕事は絶対になくならない。安定したい方にはぜひ入ってきてほしい」。さらに「ブルーカラーの業界はどんどん年齢層が上がっている。若い人はエネルギーも考え方も違う。起業するという意味でも、清掃業はしやすい業種だと思います」と続けた。
清掃業という「人がいなければ成り立たない仕事」の現場に立ち続けながら、澤田代表は静かに、しかし着実に「誰かに引き継げる会社」へと歩んでいる。中小建設業の経営者が直面する採用難・定着問題・後継者育成——その多くと共鳴するリアナージュの歩みは、業種を超えて参考になるはずだ。
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取材を通じて感じたのは、澤田社長の「背伸びをしない誠実さ」だ。野心よりも誠実さを武器に、20年現場に向き合ってきたその姿勢は、どんな業種の経営者にとっても、一つの答えとして響くものがある。