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八幡代表が土木の世界に飛び込んだのは17歳のときだった。以来、26年間ほぼ土木一本でキャリアを積んできた。「もうそれしかしてないですね」という言葉に、業界への迷いのなさがにじむ。
独立の動機を問われると、「特にこれといった野心があったわけではない」と笑う。同級生がすでに独立していたこともあり、何となく頭の片隅にあった選択肢ではあった。しかし実際の決断は、ある夜の出来事がきっかけだった。
「35歳のとき、夜中に急に目が覚めて。35かあって思ったら、もう今しかないなあって。次の朝には辞めようって決めてました」
前職では十数年にわたり勤めており、会社に在籍したまま動くのは自身のなかで「マナーに反する」という感覚があった。そのため準備ゼロに近い状態で退職し、2018年3月に株式会社八起土木を設立。個人事業主の段階を飛ばしていきなり法人化という形でスタートした。
前の職場の社長とは今でも付き合いが続いており、会社の行事にも顔を出すなど良好な関係を維持している。「地場でやってるから、円満にしてる方がいいと思って」という姿勢が、独立後の仕事の広がりにもつながっている。
八起土木の事業内容は、造成工事をメインに道路・河川・排水・下水工事まで、土木工事全般を手がける。「何屋さんっていうのはないんだよね。土木屋さんていうか」と八幡代表が言うとおり、土木という言葉が示す範囲は幅広い。
特筆すべきは、書類作成や測量を含めた一式での対応が可能なこと。公共工事・民間工事の両方に対応しており、民間のみ、あるいは書類対応ができない業者が少なくない中で、こうした守備範囲の広さは中小元請けにとって頼もしい存在だ。「何でもするからね、っていうところぐらいしかありませんかね」と謙遜しながらも、受注は新規営業ゼロで回ってきているのが現実だ。
5名という少人数体制では、八幡代表自身も現場に出続ける。機械に乗りながら現場をこなし、書類処理や測量まで一人でこなせる「全部できる監督」としての経験が、会社の底力を支えている。
取引先との関係では、「先に声をかけてくれた順に動く、言ったことは必ず守る」という明快な姿勢を貫く。急に仕事の有無を変えてくるような元請けには毅然と対応しつつも、長く付き合える関係を最優先にしてきた。この誠実さが、紹介ベースで仕事が途切れない源泉になっている。
中小建設業にとって人材確保は共通の課題だが、土木はとりわけ深刻だ。「昔からの友達で土木やってるって言うのは、二、三人しかいない」という状況が、業界全体の構造的な人材不足を物語っている。
八起土木では現在、特定技能の外国人スタッフ3名が在籍している。もともと技能実習生の採用経験もあったが、言語の壁や途中帰国といったリスクを経験したのち、「すでに3〜4年日本にいて、それでも残りたいと言っている人たちの方がモチベーションが違う」と判断し、特定技能に切り替えた。
一緒に同じ車で現場へ向かい、同じ目線で働く日常が、自然と信頼関係を築いている。「同じ異国でも頑張ってるわけだから」という視点は、単なる労働力としてではなく、共に働く仲間として向き合う八幡代表の姿勢を示している。
公共工事の入札では、地元・高槻市の案件に対して40社前後が参加し、落札できるのは1社だけ。「2%とかの世界」という厳しさの中で、公共工事だけに頼らず民間の仕事とバランスをとる経営判断が求められる。また仕事規模が大きいほど先払いが発生し資金繰りが重くなるという構造は、規模拡大を慎重にさせる現実でもある。
今後の展望を聞くと、「現状維持を目指したらそれ以下になってしまう」という言葉が返ってきた。物価高騰や賃金上昇が続くなかで、現状をキープすること自体がすでに前進を要する時代だという認識だ。
規模拡大については慎重だ。人数を増やすには、自分が管理に入らなくても現場を自走させられる「即戦力の監督クラス」の存在が前提になる。土木で本当に一人前になるには10〜15年かかるとされており、「育てながら増やす」という道は、資金面でも時間面でも簡単ではない。「じっくり仕事を増やしていくぐらいがベスト」というのが、現時点での現実的な方針だ。
これから建設業を志す若い人たちへのメッセージを求めると、こんな言葉が出た。「土木はトンネルから橋梁から川から道路から、全部土木。やることが本当に広くて、覚えることも多い。でも、ちゃんとやれる人間はどこでも必要とされる」
派手な成長戦略よりも、誠実に仕事を重ね、任せられる仲間を少しずつ増やしていく。その地道な積み重ねこそが、地域の土木インフラを支える小さな会社の強さだ。
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取材を通じて印象的だったのは、八幡代表の「義理と現実を両立する」姿勢でした。元請けへの誠実さ、外国人スタッフへの人間的なまなざし、そして無理な拡大をしない経営判断。土木という地味に見えるフィールドで、26年間ぶれずにやってきた人の言葉は静かに重みがありました。