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毎年夏になると、建設・製造現場での熱中症事故のニュースが後を絶たない。「全員が同じ量の水を飲む」「WBGT値が基準を超えたら作業を中断する」——これまでの熱中症対策は、あくまで「環境」を基準とした一律対応が主流だった。しかし、同じ現場で同じ作業をしていても、人によって身体への負担は大きく異なる。最新の計測技術がその「個人差」を数値化し、建設・製造現場の熱中症対策に新たな視点をもたらしつつある。
長野県茅野市に本社を置くカナルウォーター株式会社は、建設・製造現場などの暑熱環境下で働く方を対象に、発汗計測機器「カナルパイロット」を活用した「熱中症リスク管理・調査サービス」を提供している。同社が実施した建材メーカーでの調査では、個人差の大きさが改めて浮き彫りになった。
『カクイチ建材工業で実施した発汗量調査では、同じ現場で同じような作業をしている方でも、発汗量に約4倍の差があることが確認されました。もっとも発汗量が多かった方は約5.6L/日、少ない方は約1.4L/日でした。この結果をもとに、作業者ごとの発汗量に応じた水分補給量の目安を設定するなど、従来の「全員一律」の熱中症対策から、個人の違いを考慮した熱中症対策への取り組みが始まっています。』
引用元:カナルウォーター株式会社プレスリリース(PR TIMES掲載)
建設・製造現場における熱中症対策は、これまで主に気温・湿度・輻射熱を組み合わせたWBGT(暑さ指数)に基づく環境管理が中心だった。基準値を超えた場合に作業を中断させる、休憩を増やす、水分補給を促すといった対応はいずれも「現場環境」に対する一律の措置である。
しかし今回の事例が示すとおり、同一環境下でも作業者間の発汗量には最大4倍もの差が生じる。発汗量が多い作業者に対して「全員と同じ量の水分補給」を指示するだけでは、水分・塩分の補給が実態に追いつかないケースも起こりうる。逆に発汗量が少ない作業者に対する過剰な給水指示は、低ナトリウム血症などの別リスクを招く可能性もある。一律対応の限界は、データが明らかにした現実だ。
カナルウォーターのサービスが建設・製造現場にもたらすもう一つの価値が、現場・工程ごとの暑熱リスクの「見える化」だ。カクイチ建材工業では5つの製造工程に「カナルパイロットC」を導入し、熱中症リスクが高まった際に管理者へメール通知が届く仕組みを構築した。
同社製造部の若林部長は「全体としては比較的良好に暑熱管理されているとの評価を受けた一方、現場別に見ると、突出して厳しい暑熱環境となっている工程があることも分かった」と語る。この把握によって翌年度の予算を該当工程の暑熱対策に重点投下することが可能になった。建設現場でも同様に、工区や作業内容によって暑熱リスクは大きく異なる。データに基づいてリスクの高い箇所に集中的に対策を施すことが、コスト効率の観点からも有効な手段となる。
引用元:カナルウォーター株式会社プレスリリース(PR TIMES掲載)
発汗量の計測結果は、管理者が作業者ごとの水分補給量の目安を設定するための根拠データとして活用されている。カクイチ建材工業での調査では、発汗量が多いAさんに対して約706mL/時間、少ないBさんに対して約188mL/時間という給水量の目安が算出された。
若林部長は「一律に『全員同じ量を飲む』のではなく、その人の発汗量に応じて水分補給を考えられるようになったことは、大きなメリットだ」と評価している。現場監督が作業員一人ひとりの給水タイミングや量を個別に管理する負担は大きいが、計測データをもとにした客観的な基準があることで、指示の根拠が明確になり、作業員側の納得感も得やすくなる。
カナルウォーターは2026年度、公益財団法人市村清新技術財団の「第117回新技術開発助成」に採択された。次の技術開発目標は、発汗量に加えて汗の塩分濃度・塩分喪失量を計測できる機器の実用化だ。
発汗によって失われるのは水分だけでなく、ナトリウムなどの電解質も含まれる。塩分喪失量まで把握できれば、「環境の暑さ」「個人の発汗量」「塩分喪失の程度」という3つの軸を組み合わせた、より精緻な熱中症リスク管理が実現する。同社は「現場全体に対して行われてきた熱中症対策を、一人ひとりの身体の状態にまで踏み込んだ対策へと進化させること」を目指している。また、同社の取り組みは日経アーキテクチュア(2026年8月27日号)の特集「建築を変革するベンチャー100」にも選出されており、業界からの注目度も高まっている。
「全員が同じ対策をすれば安心」という時代は、データが終わりを告げようとしている。発汗量に最大4倍の個人差があるという事実は、建設・製造現場の管理者が「個人の身体状態」に目を向けることの重要性を改めて示している。IoT・センシング技術を活用した個別管理の仕組みを早期に検討することが、作業員の安全確保と現場の生産性維持の両立につながる。熱中症対策は「環境管理」から「個人管理」へ——その転換を、今夏から始める価値は十分にある。
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