🏗️ なぜ建設業を選んだのか?原点にある想い
安原社長の経歴は、建設業界では珍しいものだ。もともとはジーンズメーカーのアパレル業に従事しており、建設とはまったく無縁の世界にいた。土木の学校にも通っておらず、業界知識はほぼゼロだったという。
転機は、父親(先代社長)が脳梗塞で突然倒れたことだった。当時、会社には8人ほどの従業員を抱えており、「このままでは会社も従業員も路頭に迷う」という状況のなかで、安原社長は周囲から「やってくれないか」と頼まれた。
「素直には、はいと言える状況じゃなかったですよ。でも逃げるわけにはいかなかった」
業界未経験での承継は、相当な重圧だったはずだ。しかし、従業員全員が家族同然の付き合いだったことが救いになった。もともと安原家の敷地内に住み込みで雇われていた職人たちは、安原社長が幼い頃から顔なじみの"おじさん"たちだった。右も左もわからない状態で現場に入った社長を、年上の職人たちが丁寧に教え、支えてくれた。
こうして30歳で承継してから約30年。親父の代と合わせると、会社の歴史は60年近くに及ぶ。現在は息子さんへの三代目承継も視野に入れながら、経営を続けている。
🔧 うちにしかできないこと──現場が語る強みとは?
有限会社安原建設のメイン事業は、マンションの外構・仕上げ工事だ。排水設備や植え込み周りの構造物設置など、入居者が「住む場所」として使う部分の品質を直接左右する仕事を担っている。個人住宅の案件はほぼ扱わず、大手建設会社の専属パートナーとして現場を回し続けて、すでに10年以上、仕事が途切れたことがない安定した体制を築いている。
中小建設業にとって、これほどの安定受注は経営の根幹を支える強みだ。その信頼の源泉は、徹底した「手直しなし」へのこだわりにある。
「検査を受けても、ほとんど指摘が上がってくることがない。それが選ばれている一番の理由やと思ってます」この品質を支えているのが、現場での二重チェックの徹底だ。一つの作業が終わったら、施工した本人とは別のメンバーが必ず確認を行ってから次の工程に進む。同じ人間が見ると見落としが出やすいため、あえて手の空いた別の職人が目を通す仕組みだ。 また、現場ごとに図面どおりに進めるだけでなく、「こうしたほうが使い勝手がいいのでは」という提案を現場から積極的に発信し、変更をかけることもある。まさに施工のプロとしての付加価値を、日々の現場で体現している。 従業員は社長を含め4名の少数精鋭。最も経験の浅いメンバーでも、業界歴10〜12年というベテランぞろいだ。人数が少ない分、一人ひとりの技術と判断力が問われるが、だからこそミスが少なく、品質が安定する。
⚠️ 人手不足・承継…課題だらけの建設業で、どう動くか?
「今、一番苦労しているのは人材です」と安原社長は率直に語る。
10年ほど前は、求人広告を出せば必ず2〜3人は応募があった。ところが今は、どれだけ広告を出しても「なかなか入ってこない」という状況が続いている。周囲の同業者に聞いても、同じ声しか上がってこない。
中小建設業にとって、人手不足は今や最大の経営課題と言っていい。安原社長の会社でも、かつては10人以上を抱えていた時期もあったが、採用と離職を繰り返す中で「人を増やすほど利益が飛んでいく」という厳しい現実も経験した。その反省を踏まえ、今は適正な人数で利益を確保する経営スタイルに切り替えた。
一方で、三代目への承継を控える中、「息子に引き継ぐときには、人だけはちゃんとしておいてやらないと苦労させる」という思いが、採用強化への動機にもなっている。
また、事業の幅を広げる上では、左官工事など関連職種の業者とのネットワーク構築も課題として意識している。高齢化が進む職人業界において、同業・異業種の横のつながりを広げることが、受注力の強化につながると見ている。
🌱 10年後のビジョン──地域と次世代への想いを語る
安原社長は現在、還暦を迎えたところだ。息子さんへの事業承継を念頭に置きながら、「どんな会社にしていきたいか」を問われると、こんな言葉が返ってきた。
「背伸びしてもしかたない。着実にやって、信用と信頼を勝ち得ていく経営をしてほしいんです」無理に仕事を取りに行けば、品質にひずみが出る。建設業は、手抜きがすぐにわかる世界だ。だからこそ、足もとを固めながら着実に信頼を積み上げることが、この業界で長く生き残る唯一の道だと安原社長は確信している。 一方で、現場の仕事そのものへの誇りも強い。 「車で走っていて、自分がやった現場が見えると、家族に『ここは俺がやったんや』って教えたくなる。形に残る仕事やから、そういう楽しみがある」 購入した人が気持ちよく住める環境を整えること。それが安原社長にとっての仕事の本質であり、職人としての喜びでもある。 若い世代へのメッセージを聞くと、「素直で、言われたことをきちんと受け入れられる人」が向いていると語った。上下関係のフラットな職場で、わからないことがあれば誰にでも聞ける。通勤の車内でも雑談しながら関係を築く、アットホームな現場だ。未経験からでも、素直に学ぶ姿勢があれば必ず力がつくという確信が、言葉の端々から伝わってきた。
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取材を通じて感じたのは、安原社長の「背伸びしない経営」への一貫した哲学でした。アパレルから建設へという異色の転身も、根っこにあるのは「逃げずに向き合う」姿勢。その誠実さが60年の信頼を支えているのだと、強く感じました。