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「仕事の手順を教えていたはずなのに、いつの間にか彼女との関係の話になっていた」——建設現場ではこうした経験談は珍しくない。新人が職場に慣れてくる時期、技術指導の場が悩み相談の場へと変わることがある。これは単なる"脱線"ではなく、若手が心を開き始めたサインでもある。
就職を機に地元を離れたり、生活リズムが変わったりした若手にとって、本音を話せる相手は意外と少ない。友人とは時間が合わず、家族には心配をかけたくない。そんなとき、毎日顔を合わせる職場の先輩がいちばん話しやすい存在になる。
建設現場は長い時間を共に過ごし、危険を分かち合う環境だ。自然と「この人なら話せる」という感覚が生まれやすい。特に中小の建設会社では人事部などの体制が整いにくく、現場監督や職人の親方が相談相手を担うことが多い。
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厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」によると、就職後3年以内の離職率は高卒で37.9%、大卒で33.8%にのぼる。事業所の規模別に見ると、従業員5〜29人の事業所では高卒54.6%・大卒52.0%と、1,000人以上の事業所(高卒26.3%・大卒27.0%)のおよそ2倍だ。小さな職場ほど若手が辞めやすいという傾向は、中小建設会社にとって見過ごせない。
小規模な職場ほど、人間関係が働きやすさを大きく左右する。新たに採用し育てるコストを考えれば、「仕事以外の話は業務外」と切り捨てるより、柔軟に耳を傾ける姿勢が定着につながると考えたい。
とはいえ、際限なく個人的な問題に巻き込まれることは現場監督自身の負担にもなる。重要なのは、「聴く」と「解決する」を明確に分けることだ。アクティブリスニング(アクティブリスニングとは:相手の話を評価・判断せずに共感しながら能動的に聴く傾聴技法)の基本として、まず「そうか、大変だったな」と受け止める。そのうえで「俺にできることには限界があるが、仕事の面では一緒に考えよう」と境界を設ける。この一言があるだけで、若手は「聴いてもらえた」と感じ、現場監督は過度な依存関係に陥らずに済む。
眠れない、ミスや遅刻が急に増えたなど心の不調が疑われる場合は、抱え込まず専門家につなぐことが大切だ。厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」では、電話やSNSの相談窓口を案内している。
建設業では2024年4月から時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)が適用された。労働時間を減らすだけでなく、職場環境そのものの質を高めることが人材定着・採用力強化の差別化ポイントになりつつある。
「相談できる雰囲気がある」という心理的安全性(心理的安全性とは:自分の意見や悩みを安心して表現できる職場の雰囲気)の高さは、紹介や口コミを通じて採用にも影響しうる。中小建設会社が打ち出せる強みの一つが、この「人の近さ」だ。
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中小の建設会社では、経営者や現場監督が若手一人ひとりと直接関われる。距離の近さを生かして早めに変化に気づき、声をかけられるかどうかが定着の分かれ目になる。これは、かつての「職人の親方制度」が持っていた機能と本質的に同じだ。
現代風にアップデートするなら、定期的な1on1ミーティング(1on1とは:上司と部下が1対1で行なう定期的な対話の場)を設けるのが有効だ。月に一度、15分程度でも対話の時間をあらかじめ確保しておけば、突発的な相談に振り回されにくくなり、若手の小さな変化にも気づきやすくなる。昼休憩や移動中など、話しやすい場面を選ぶのも一つの工夫だ。
新人指導が人生相談に変わる瞬間は、決して"面倒な脱線"ではない。大切なのは、その場で全力で解決しようとするのではなく、「聴く姿勢」と「線引き」を両立させ、必要なときは専門家につなぐことだ。中小建設会社の強みである"人の近さ"を武器に、若手が長く働きたいと思える環境を整えていただきたい。
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【参考資料】
「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00010.html)
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