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三宅氏が大工の道に進んだきっかけは、決して特別なものではなかった。父親が大工であり、その背中を継ぐかたちで、自然とこの世界に入っていったという。
「特別な思い入れがあったというより、気がつけばこの道に。母にも、継ぎなさいと言われていましたから」
高校卒業を控え、進学か就職かを考えていた頃、後を継ぐことが現実味を帯びてきた。当初は自分の人生を決められることへの戸惑いもあったが、最終的に父とともに歩む道を選ぶ。18歳から数えて、すでに37年が経つ。
入った当初は、父とその弟子、そして自身の三人での仕事だった。乾燥材もプレカットもない時代である。木を建てて荒壁を塗り、乾燥を待つ合間にもう一棟を手刻みで刻み、また建てては仕上げていく。その繰り返しのなかで、合間にはリフォームや改造も手がけてきた。中小建設業にとって、こうした地道な現場経験の積み重ねこそが、技術の土台となっていく。
そして父が70手前を迎えた頃、はっきりとした代替わりの節目があったわけではないという。
「個人事業主なので定年もなく、父がそろそろ体も偉いし、と話すうちに、いつの間にか自分が代表になっていた、みたいな感じですね」
仕事を続ける原動力となったのは、父の働く姿だった。お客様と業者という間柄を超えた、人と人とのつながり。それを大切にする父の人柄に、三宅氏は次第に気づかされていく。
転機となったのは、現場数が落ち込み、転職を考えていたある日のこと。昔に手がけたお宅のおばあさんから、経年劣化による床の不具合について連絡が入った。修繕に伺うと、心から喜んでくれたという。
「すごく喜んでくれて、その時に『これはやめたらあかんな、続けなあかんな』という決心が湧いたんです」
この想いは、いまの仕事の流儀にもつながっている。たとえば床がたわむと相談を受けても、構造に問題がなければ床下に補強を入れるだけで済ませることもある。張り替えれば工事費は増えるが、お客様にとって必要のない出費はかけない。
「儲けだけ考えれば、ああしたらこうしたらと提案はいくらでも出てくる。でも、お客様の立場になればそこまでする必要はない。安い買い物じゃないですから」
大手ハウスメーカーには名前の安心感や工期の早さといった利点がある。三宅氏もそれを否定はしない。一方で、地元の大工ならではの強みもあると語る。
その最たるものが、現場を知っていることだ。実際に手を動かす職人だからこそ、補強の要不要や強度の見極めまで含めて、お客様に説明ができる。
「形だけ作っても、強度的に弱いこともある。現場と仕事の内容が分かるから、裏の工程まで踏まえてお話しできるんです」
この現場感覚は、お客様への説明責任にも直結する。営業担当者から「お客様がこうしたいと言っているが、どうすればいいか」と相談を受けることも少なくないという。中小建設業にとって、図面の裏側にある下地や納まりまで理解していることは、何より大きな信頼の源になる。
設備や建材の選び方でも、その姿勢は変わらない。たとえば窓のガラスを選ぶ際にも、性能や枠との相性まで踏まえて、本当に価値のある選択肢を提案する。
「トリプルガラスが出始めた頃、当時は枠がトリプルガラスの性能に追いついていなかった。だったらグレードの良いペアガラスの方が安くて性能もいい、と説明してお客様と決めました。安くて良いものを提供したいんです」
いま、三宅建築には三代目となる息子も加わっている。きっかけは父である三宅氏とよく似ており、特に勧めたわけでも反対したわけでもなく、自然とこの道を選んだという。
「お客様に喜んでもらえるという実感は、まだこれからですね。それは自分とお客様が話していく中で、自分で見つけるものやと思うから」
自分の仕事以上に、次の世代を育てることへの責任を感じていると、三宅氏は静かに語る。その背中で伝えたいのは、家づくりにかける一貫した想いだ。
十数年前、こだわりの強いお施主様の新築を手がけた際には、特殊な床材を建材屋とともに探し回り、できることをすべてやり尽くした。その家は今も、お客様に喜ばれ続けているという。
「お客様の思いを形にする。それが一番です。どんな思いで家を触りたいのかを最優先に、最善の方法を探していきたい」
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取材を通じて感じたのは、三宅氏の「お客様の立場で考える」という揺るぎない姿勢だった。儲けよりも納得のいく仕上がりを。父から受け継いだその想いは、いま三代目へと確かに引き継がれている。