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「いつもの付き合いだから電話で十分」「急ぎの現場だから書類は後回し」。建設業の現場では、こうした口約束での発注が今もめずらしくありません。しかし、工事が終わってから「その追加工事は頼んでいない」「金額はもっと安いはずだった」と言われ、請求額を減らされてしまうケースは後を絶ちません。
たとえば、内装工事を請け負った協力会社が、現場で元請の担当者から口頭で間仕切りの追加を頼まれたとします。工事完了後に追加分を請求すると「本体価格に含まれていると思っていた」と返され、結局は泣き寝入り。証拠がなければ、立場の弱い側が損をしやすいのが現実です。
※画像はイメージです
こうした失敗の根本原因は、工事の範囲・金額・工期といった合意内容が、どこにも記録されていない点にあります。人の記憶はあいまいなうえ、担当者が異動や退職をすれば、当時のやり取りを知る人がいなくなってしまいます。
また、「500万円未満の小さな工事なら契約書はいらない」という誤解も原因の一つです。500万円という基準は建設業許可(建設業許可とは:一定規模以上の工事を請け負うために必要な国や都道府県の許可)が不要な軽微な工事の目安であって、契約書の要否とは関係ありません。
建設業法第19条(建設業法第19条とは:建設工事の請負契約を書面で結ぶことを義務付けた条文)では、工事の金額や規模にかかわらず、すべての建設工事で書面による契約が求められています。書面に記載すべき法定の事項は、全部で16項目あります。
主な項目は、工事内容、請負代金の額、着工と完成の時期、工事を施工しない日や時間帯の定め、前払金・出来高払いの時期と方法、設計変更や工事中止時の取り決め、天災など不可抗力の際の負担、価格変動による代金変更、検査と引渡しの時期、代金の支払時期と方法、契約不適合責任(契約不適合責任とは:引き渡した工事が契約内容と合わない場合に請負側が負う責任)に関する措置、違約金、紛争の解決方法などです。
実務では、継続的な取引先と基本契約書(基本契約書とは:取引全体に共通するルールをまとめた契約書)を結んだうえで、工事ごとに注文書と請書(請書とは:注文を引き受けたことを示す受注側の書面)を取り交わす方式がよく使われます。国土交通省の通知でも、この形式をとる場合は、注文書と請書に工事内容や代金、工期などを記載し、それ以外は基本契約書に従う旨を明記するよう整理されています。
項目が欠けていると建設業法違反として指導や監督処分の対象になる可能性があるので注意しましょう。
まず、注文書には「どこからどこまでの工事か」を具体的に書くことが大切です。図面番号や仕様書、見積書の番号を記載しておけば、工事範囲の認識違いを防げます。
次に、追加・変更工事が出たときは、着手前に変更注文書や合意書面を交わすことを社内ルールにしましょう。「とりあえず進めておいて」の一言こそ、トラブルの火種になります。
さらに、事務負担を減らしたい場合は電子契約の活用もおすすめです。建設業法では一定の要件のもとで電子契約による締結が認められており、「クラウドサイン」などといったサービスを使えば、スマホやパソコンから注文書・請書のやり取りができます。紙の請書は印紙税の課税対象となるのが一般的ですが、電子契約なら収入印紙が不要になる点もメリットです。
国土交通省が公表している建設工事標準請負契約約款や建設業法令遵守ガイドラインも、ひな形作りの参考になります。自社で一から作るのが不安な場合は、行政書士などの専門家に確認してもらうと安心です。
【参考】
国土交通省「注文書及び請書による契約の締結について」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001912972.pdf
口約束は手軽ですが、トラブルが起きたときに自社を守ってくれるのは書面だけです。工事注文書と請書をきちんと取り交わし、追加工事も含めて記録を残す習慣をつけることで、取引先との信頼関係も長く続きます。小さな工事こそ、書面での合意から始めましょう。
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