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たとえば、職人を5人雇っている内装業の会社が、工事一式で見積書を出したとします。元請から「もう1割なんとかならない?」と言われ、付き合いを考えて値引きに応じました。ところが決算を迎えると、利益がほとんど残っていません。原因を調べてみると、職人の社会保険料の会社負担分を、値引きによって丸ごと自腹で払っていたことがわかりました。
こうしたケースは珍しくありません。根っこにあるのは、「法定福利費」と「福利厚生費」の区別があいまいなまま、すべてを一式の金額に混ぜてしまっていることです。
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法定福利費(法定福利費とは:法律で会社に負担が義務付けられている社会保険料などの費用)には、健康保険・介護保険・厚生年金保険・雇用保険・労災保険の会社負担分、子ども・子育て拠出金などが含まれます。従業員を雇っている限り、会社の都合で減らすことはできません。
一方の福利厚生費は、社員旅行、慶弔見舞金、作業着の補助、定期健康診断の費用などです。こちらは会社ごとの工夫や努力で増減できる費用です。
つまり、法定福利費は「削れない必要経費」、福利厚生費は「企業努力の範囲」と考えるとわかりやすいです。見積書では、福利厚生費は一般管理費(一般管理費とは:事務所の家賃や事務員の給与など、会社を運営するための共通経費)に含め、法定福利費は別に記載するのが基本です。
国土交通省は、建設業界の社会保険未加入問題の対策として、長年にわたり法定福利費を内訳明示した見積書の活用を呼びかけてきました。2020年10月の改正建設業法(建設業法とは:建設工事の請負契約や業者の許可について定めた法律)では、社会保険への加入が建設業許可の要件になりました。
さらに、2025年12月に全面施行された改正では、標準労務費の考え方が導入されました。あわせて、著しく低い労務費での見積もりや契約が、発注側だけでなく受注側にも禁止されています。法定福利費を明示していない見積書は、それだけで不利になりやすい時代になっているのです。
ステップ1:労務費を出す
工事に必要な人工数に単価を掛け、労務費の合計を算出します。
ステップ2:保険料率を掛ける
労務費に、会社負担分の保険料率の合計を掛けます。目安としてはおおむね15%前後になることが多く、労務費100万円であれば法定福利費は約15万円です。
ただし、健康保険料率は都道府県ごとに異なり、各料率は年度ごとに改定されます。協会けんぽや日本年金機構、厚生労働省の最新情報で必ず確認してください。なお、建設業の労災保険は原則として元請が現場単位で加入するため、下請の見積書には含めないのが一般的です。
ステップ3:別の行として記載する
「法定福利費(事業主負担分)」という項目を設け、工事費とは別に金額を明記します。専門工事業団体の多くが標準見積書(標準見積書とは:業界団体が作成した、法定福利費を内訳明示できる見積書のひな形)を公開しているので、自社の職種に合うものを活用すると手間が省けます。
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値引きを求められたら、「法定福利費は法律で決まった負担なので、値引きの対象外とさせてください」と率直に伝えましょう。交渉の対象を工事費や諸経費に絞ることで、利益を守りながら誠実な姿勢も示せます。
やり取りはメールや書面に残しておくと、後々のトラブル防止にもつながります。
法定福利費は、職人さんの暮らしと会社の信用を支える大切なお金です。見積書で「見える化」するひと手間が、値引き交渉から会社を守り、元請からの信頼も高めてくれます。次の見積もりから、ぜひ取り入れてみてください。
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