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職人や現場監督が積み上げた見積書を手に、社長が金額欄で手を止める。「こんなに高くて本当に取れるのか」。中小の建設会社ではよく見かける光景です。しかし結論から言えば、今の時代に本当に二度見すべきなのは「高すぎる見積もり」ではなく「安すぎる見積もり」です。
数年前の単価感覚のまま出した見積もりは、利益を削るだけでなく、法令違反に問われるおそれさえあるからです。
背景にあるのが改正建設業法(建設業法とは:建設工事の請負契約や許可などを定めた法律)です。2024年に改正された同法は段階的に施行され、2025年12月に全面施行されました。同月に中央建設業審議会が作成・勧告した「労務費に関する基準」(労務費に関する基準とは:職種ごとに適正な労務費の目安を示した国の基準)よりも著しく低い見積もりや契約は禁止されています。
国土交通省の資料では、数年にわたり見直していない労務単価で見積もりをやり取りすることを「単価を見直さない据え置き」と位置づけています。適正な労務費を踏まえた見積もりを、合理的な根拠なく端数調整で減額する行為も問題視されています。「昔はこの値段でやれた」という感覚は、もはや通用しにくくなっているのです。
数字を見れば、見積額が膨らむのは当然だと分かります。国土交通省は2026年3月から適用する公共工事設計労務単価(公共工事設計労務単価とは:国や自治体が公共工事の予定価格を積算する際に使う職種別の賃金単価)を全職種の単純平均で4.5%引き上げました。引き上げは14年連続で、加重平均額は2万5834円です。前年の6.0%と合わせると、2年で9.5%上昇した計算になります。
資材側も同様です。日本建設業連合会が2026年7月にまとめた資料によると、建設物価調査会の推計で建設資材物価は2021年6月比で39%上昇しています。資材高騰と労務費上昇を合わせた全建設コストは、直近2年で平均7.3〜8.2%上がったと試算されています。資材の納期遅延も起きており、代替品の調達や追加工事が費用をさらに押し上げる要因になっています。
今後の焦点は見積書の「中身」です。改正法と労務費基準のもとでは、労務費、材料費、法定福利費(法定福利費とは:社会保険料などの事業主負担分)、建退共(建退共とは:建設業退職金共済制度)の掛金、安全衛生経費を内訳として示した見積書の作成が求められ、注文者にはその内容を考慮・尊重することが求められています。国土交通省は2026年3月26日、専門工事業者向けに「建設工事の見積書様式例 徹底 書き方ガイド(運用編)」を公表しました。今後は「一式いくら」の見積書では、金額の根拠を説明しにくくなるとみられます。
また、見積書の交付時などに資材高騰の「おそれ」情報を注文者へ通知しておけば、契約後に請負代金の変更協議を申し出ることができます。逆に言えば、通知を怠った会社は価格転嫁の機会を自ら手放すことになります。
※画像はイメージです
第一に、自社の労務単価を年に一度は見直すことです。最新の公共工事設計労務単価や、建設物価調査会の「建設物価」、経済調査会の「積算資料」といった公表資料と照らし合わせ、数年前の単価が残っていないかを確認しましょう。
第二に、見積書の様式を内訳明示型に切り替えることです。国交省の書き方ガイドを参考に労務費や法定福利費を分けて記載すれば、値引き交渉の場でも根拠を示して説明できます。
第三に、見積書の提出時に資材高騰の「おそれ」を書面で伝える習慣をつけることです。通知した事実と日付を記録しておけば、後の変更協議で大きな支えになります。
見積書の金額に社長が二度見する瞬間は、自社の値付けを見直す好機でもあります。「高い」と感じたら根拠を確かめ、「安い」と感じたら法令違反の芽を疑う。その姿勢こそが、会社の利益と職人の賃金を守る近道です。
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出典:
・「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について~今回の引き上げにより、14年連続の上昇~」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00337.html)
・「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について~今回の引き上げにより、13年連続の上昇~」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00261.html)
・「通常必要と認められる労務費を著しく下回るおそれのある取引事例集」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001976084.pdf)
・「労務費等を内訳明示した見積書で、新たな商習慣の定着へ!~『建設工事の見積書様式例 徹底 書き方ガイド(運用編)』を公表~」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001990359.pdf)
・「建設工事費デフレーターの概要及び改定内容について」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/common/001190408.pdf)
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