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図面、仕様書、写真、見積書――建設現場を支える膨大なファイルは、日々蓄積される一方で、いざ必要な場面で「どこに保存したか分からない」という事態を引き起こしがちだ。デジタル化が進んでいるはずなのに、担当者が退職すると途端にファイルの在り処が不明になる。こうした問題は建設業に限らず、多くの中小企業が抱える共通課題である。今回は、この「保存されているのに探せない」問題について、最新の実測調査データをもとに原因と対策を整理する。
株式会社ネクフルが2026年8月に公開した調査報告「探せないファイル」は、この問題を正面から取り上げた注目すべき内容だ。同社は建設・建築をはじめ10業種に共通して発生する「保存されているのに探せないファイル」を「到達不能ファイル」と定義し、どの手段でどこまで解消できるかを実測した。
以下、報告書の核心部分を引用する。
『社内にファイルは保存されている。閲覧権限もある。削除もされていない。それでも、必要とする人が思いつく言葉で検索すると出てこない——本調査はこの状態を「到達不能ファイル」と定義し、その広がりと、どの手段でどこまで解消できるかを測定しました。建設・建築、製造、放送・配信・動画制作、広告代理店・制作会社、自治体・公共イベント、クリニック・医院、士業、調剤薬局、人材派遣、保険代理店。扱う商材も規制環境も共通しない10業種が、同じ構造の失敗を報告します。「10年前に建てたビルの配管図はどこにあるか」「この映像の権利処理はどうなっていたか」「この動画をまだ見ていない代理店はどこか」。いずれもファイルに関する問いですが、いずれもファイル名を思い出す作業には還元できません。』
引用元:株式会社ネクフルプレスリリース(PR TIMES掲載)
調査報告の全文:https://necfru.com/blog/security/unreachable-files/(無料・登録不要)
測定に使ったデータの全件公開:https://github.com/Necfru-Inc/unreachable-files(CC BY 4.0)
調査では、業務ファイルを模した138件のファイルと35問の課題を用いて、「キーワード検索」と「会話型AI検索」の性能を比較測定した。結果は以下のとおりだ。
キーワード検索のTop-1正解率は0.333、つまり上位1件に正解ファイルが表示されるのは3回に1回にとどまる。さらに、5回に2回(圏外率0.400)は上位10件のどこにも正解が現れなかった。一方、同じ質問を自然文で入力した会話型AI検索では、Top-1正解率が0.967、圏外率は0.000という結果が出た。差は統計的に有意であり(McNemar完全二項検定 p=0.000021、効果量 r=0.86)、AI検索の優位性は数値として明確に示されている。
ただしキーワード検索側には、質問文から機械的に抽出した語をすべて個別に検索し最良の順位を採るという、実際の利用者より有利な条件が与えられている。0.333はキーワード検索が達成しうる上限値である。
建設業の現場では「あの施工写真はどこだ」「竣工図のPDFが見当たらない」という場面が日常的に起こる。担当者が変わるたびにファイルの命名ルールが変わり、フォルダ構造が乱れていく。この問題の根は深い。
なお本調査は、ネクフル社が自社製品を自社で評価したものである。コーパス作成者・課題作成者・判定者・報告執筆者は同一人物であり、第三者による独立検証は受けていない。コーパスも138ファイル・約3.6MBと小規模で、数十万ファイル規模の実環境に外挿できるものではない。同社はこれらの限界を報告書内で明記している。
一方、AIが自動生成したタグによる絞り込み検索は、キーワード検索を統計的に有意に上回らなかった(p=0.109)という結果も示されている。30問中12問で検索結果が0件となり、5問ではタグの語彙に対応する言葉がそもそも存在しなかった。
注目すべきは、タグの品質自体は高かった点だ。生成タグの適合率は98.2%、概要の事実誤り率は0.0%である。それでも「探せない」。理由は識別性の欠如にある。138件中26件(18.8%)はタグの組み合わせが他のファイルと完全に一致しており、タグだけでは区別がつかない状態だった。同社は報告書のなかで「正確であることと、見分けられることは別の性質」と述べている。「AIがタグを付けたから探せるようになる」とは言い切れないのが実態だ。
引用元:株式会社ネクフルプレスリリース(PR TIMES掲載)
今回の調査が示す教訓を踏まえ、中小建設業が実践できる改善策を整理する。
第一に、ファイル命名ルールの統一だ。「工事名+日付+内容」など、誰が見ても内容が分かる命名規則を社内で共通化するだけで、キーワード検索の精度は大きく改善する。
第二に、会話型AI検索ツールの導入検討だ。自然文で問い合わせができるツールは、従来のキーワード検索に比べて圧倒的な正解率を示している。クラウドストレージにAI検索機能を組み合わせたサービスも増えており、中小企業でも導入しやすい環境が整いつつある。
第三に、タグだけに頼らない検索体制の構築だ。AIタグは補助的な手段として有効だが、ファイルの識別には概要テキストや数値情報の付加も欠かせない。
「保存されているのに探せない」は、建設業において図面・写真・契約書など業務の根幹に関わるファイルで日常的に発生しうる問題だ。今回の調査は、キーワード検索の限界とAI検索の有効性を数値で明らかにしつつ、「AIタグ万能論」にも冷静な目を向けることを促している。DXを推進する上で、ツールの選定と運用設計を同時に考えることが、現場の生産性向上への近道となる。
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