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「この仕事は見て覚えろ」という言葉が建設現場では長年語り継がれてきた。熟練職人の技術は一朝一夕には伝わらず、数年・数十年かけて身体に染み込ませるものとされてきた。
しかし、そうした職人が次々と定年を迎えるなか、技能継承の問題は建設業界において待ったなしの経営課題となっている。そこに、ロボット工学とAI技術を組み合わせた新たなアプローチが登場した。
熟練者の動作と言葉の両方を学習データとするロボット技術の開発が、いよいよ本格的に動き出した。
埼玉県のロボット開発企業、株式会社アトラックラボが、熟練作業者の技能をロボットへ継承する新技術の開発を開始した。同社は模倣学習(Imitation Learning)とVLM(Vision Language Model)を組み合わせた手法を採用し、「どう動いたか」だけでなく「何を見て、なぜその動作をしたのか」までロボットに学習させることを目指している。
プレスリリースでは、同技術の狙いについて以下のように説明されている。
『製造、建設、農業などの現場には、長年の経験によって身につけた「力加減」「工具の当て方」「対象物の状態に合わせた動かし方」など、マニュアルや数値だけでは伝えることが難しい技能が数多く存在します。アトラックラボでは、熟練者の動作に加えて、作業中の発話や判断理由も同時に記録し、学習データとして活用します。
「ここでは少し力を抜く」「この角度から工具を当てる」「ここまで入ったら少し戻して位置を合わせる」といった熟練者の言葉と、そのとき実際に行った動作、カメラ映像、センサーデータを関連付けることで、「どう動いたか」だけでなく「何を見て、なぜその動作をしたのか」までロボットに学習させます。』
熟練者の「動き」と「言葉」を一緒に学ぶ
引用元:株式会社アトラックラボプレスリリース(PR TIMES掲載)
建設業就業者のうち55歳以上が占める割合は多く、今後10年で大規模な引退ラッシュが避けられない状況にあるという。一方で、若手の入職者数は慢性的に不足しており、技能の継承が追いついていないという声は全国の中小建設業者から絶えず聞こえてくる。
ベテラン職人が現場で培ってきた技術は、工程表やマニュアルに落とし込めるものばかりではない。コンクリートの打設タイミングを感覚で見極める判断力、配管接続時の微妙な力加減、下地の状態を手応えから読み取る経験値——こうした暗黙知こそが、品質と安全を支える核心であり、最も失われやすい資産でもある。
同技術の特徴は、動作データだけでなく映像・音声・力覚・言語のすべてを一括して学習データとして扱う点にある。熟練者がロボットアームを操作して作業を実演する際、カメラ映像、関節位置、速度、力・トルクに加えて、「最初は軽く当てて位置を決める」「抵抗が増えたら力を抜きながら回す」といった作業中の発話を同時に記録する。
VLM(視覚言語モデル)を組み合わせることで、ロボットはカメラ映像から作業対象の状態を認識し、熟練者の言葉と動作の関係を「対象物がこの状態だから、この動作を選ぶ」という形で体系的に学習できる。これは従来の軌跡再現型ロボットとは根本的に異なるアプローチであり、状況の変化に応じた判断を伴う作業への適用を可能にする。
さらに、DAgger(Dataset Aggregation)という手法を取り入れ、ロボットが迷った場面や失敗しやすい状況に対して熟練者が追加指導を行ない、その都度学習データを蓄積していく仕組みを採用している。一度の実演で終わらず、継続的に精度を高めていける点が実用性の鍵となる。
「自社にロボットを導入するのはまだ先の話」と感じる経営者も多いだろう。しかし、この技術が示す本質的なメッセージは、すぐにでも実践できる示唆を含んでいる。それは、「ベテランの技術を記録・言語化することの重要性」である。
作業手順をビデオで記録する、ベテランが施工中に口頭で説明しながら作業する様子を動画に残す、チェックポイントごとの判断基準を文章で書き出す——こうした地道な取り組みが、将来的なロボット学習データになり得るだけでなく、現時点での新人教育にも直結する。技術の言語化は、ロボット時代への備えであると同時に、今日明日の人材育成にも有効な手段である。
また、AIロボット技術の進展を見据えた設備投資計画の見直しや、国が推進するものづくり補助金・IT導入補助金といった支援制度の活用も、中小企業にとって現実的な選択肢となりつつある。自社の技能継承問題を「職人の高齢化」という個人の問題として放置せず、経営課題として正面から向き合うタイミングが来ている。
熟練職人の「動き」と「言葉」を同時にロボットへ学習させる技術は、建設業が長年抱えてきた技能継承問題に対する、これまでにない現実的なアプローチである。
中小建設業においても、今すぐロボットを導入しなくとも、技能の記録・言語化という第一歩を踏み出すことが、将来への最大の備えとなる。技術の波に乗り遅れないよう、情報収集と社内体制の見直しを今から始めておきたい。
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