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「何度言っても動いてくれない」「若手が言うことを聞かない」「職人との関係がうまくいかない」――建設業の現場リーダーや中小企業の経営者から、こうした悩みを耳にすることは少なくない。技術や段取りは一人前でも、人を動かすことの難しさに直面している管理職は多い。その解決策のひとつが、今回紹介する書籍にある。
D・カーネギーの名著『人を動かす』は、1936年に米国で初版が刊行されて以来、世界で3000万部以上を売り上げた自己啓発の古典である。ビジネスパーソンなら一度は耳にしたことがある書名だろう。しかしながら、「読み始めたが途中で挫折した」「内容は知っているが実践できていない」という声もまた多い。
そこで注目したいのが、創元社から刊行されている『マンガで読み解く 人を動かす』(著:D・カーネギー/マンガ:星井博文、作画:なかのゆきこ)だ。原著のエッセンスをストーリー仕立てのマンガで体感できるように再構成した一冊で、文字を読む習慣がない人や、忙しくてまとまった読書時間を取れない人にも手に取りやすい形式になっている。建設現場で働くリーダー層にこそ、ぜひ読んでほしい内容が詰まっている。
建設業の現場では、職人や下請け業者、若手社員など多様な立場の人間が一つのプロジェクトに関わる。工程管理や安全指示をいくら声高に叫んでも、相手の心が動かなければ行動は変わらない。なぜ指示が通らないのか。その原因の多くは、コミュニケーションの「向き」にある。
カーネギーは原著の中で、人間の根本的な欲求として「重要感を持ちたい」という感情を挙げている。つまり、相手が「自分は認められている」と感じなければ、どれだけ正論を言っても反発や無関心を招くだけだということだ。『マンガで読み解く 人を動かす』では、この原則が具体的な職場シーンとして描かれており、読み進めるうちに「あの時の自分の言い方はまずかった」と自覚できる場面が随所にある。
本書で紹介される原則は多岐にわたるが、建設業の現場管理に直結するものを三点取り上げる。
一つ目は「批判・非難・苦情を言わない」という原則だ。ミスをした職人や若手をその場で頭ごなしに叱責しても、相手は萎縮するか反発するかのどちらかになりやすい。本書では、批判の代わりに問いかけや事実の確認を通じて相手自身に気づきを促す手法が描かれている。現場の安全管理や品質指導においても、この視点の転換は大きな効果をもたらす。
二つ目は「誠実な評価と賞賛を与える」という原則だ。「すごい」「よくやった」という言葉を惜しみがちな職人気質のリーダーほど、部下との距離が開いていく。当たり前にこなしていることを言語化して伝えるだけで、相手のモチベーションは大きく変わる。特に若手の定着に悩む企業では、この原則の実践が離職防止に直結することが多い。
三つ目は「相手の立場から物事を考える」という原則だ。職人はなぜその工法にこだわるのか、若手はなぜ報連相を怠るのか。相手の動機や背景を理解しようとする姿勢が、建設現場における信頼関係の基盤となる。マンガという形式ゆえに、登場人物の心理が視覚的に表現されており、共感しながら読み進められる点が本書の大きな強みだ。
建設業に従事するリーダーの多くは、現場と事務作業の両立でまとまった読書時間を確保しにくい。朝は早く、夜は疲れて帰宅する生活の中では、分厚いビジネス書を読み切る体力が残っていないというのが現実だ。その点において、本書はマンガという形式を採用しているため、移動中や休憩時間の短い隙間でも内容を吸収できる。
また、活字よりもマンガのほうが感情移入しやすく、「自分ごと」として読みやすいという利点がある。原著を何年も前に買ったが読み切れなかったという人が、本書で初めて内容を体感できたという声も多い。「読んだ気になっているだけで実践できていない」という状態を脱するきっかけとして、本書は非常に有効な入口となる。
人を動かす力は、技術や経験と同じくらい現場リーダーに求められるスキルだ。『マンガで読み解く 人を動かす』は、カーネギーの普遍的な人間関係の原則を、忙しい建設業のリーダーでも実践につなげられる形で届けてくれる一冊である。指示が通らない、部下との関係に悩む、チームがうまくまとまらないと感じているなら、まず本書を手に取ってみてほしい。現場の人間関係に小さな変化が生まれるはずだ。
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