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「元請から渡された契約書を、金額と工期だけ見て押印している」。中小の専門工事業者では珍しくない光景だが、こうした慣行が資材高騰時の赤字や追加工事の未払いを招く一因となっている。
結論からいえば、下請工事の損失の多くは契約前に工事請負契約約款を確認することで防ぐことができる。2025年12月には国の標準約款が改正されており、今こそ契約書の中身を見直す好機である。
工事請負契約約款(工事請負契約約款とは:工事の請負契約において当事者の権利と義務を定めた契約条件の集まり。契約書本体に添付される条項集)は、代金の支払い、工期の変更、事故や天災時の負担、引き渡し後の責任などを細かく定めている。トラブルが起きたとき、最終的な拠り所となるのは口頭の約束ではなく、この条項である。
国はモデルとなる約款を用意している。建設業法第34条第2項に基づき、中央建設業審議会(中央建設業審議会とは:建設業に関する重要事項を調査審議する国土交通省の審議会)が、請負契約の片務性(片務性とは:一方の当事者だけが重い義務を負う不均衡な状態)を是正するために作成し、当事者に実施を勧告しているのが「標準請負契約約款」である。
標準約款は4種類ある。
公共工事向けの「公共工事標準請負契約約款」、民間の比較的大きな工事向けの「民間建設工事標準請負契約約款(甲)」、個人住宅など小規模工事向けの「同(乙)」、そして公共・民間を問わず下請契約全般を対象とする「建設工事標準下請契約約款」である。下請の中小建設会社が最も意識すべきは、この下請約款だ。このほか民間の建築工事では、民間(七会)連合協定の約款も広く使われている。
約款の名称 |
主な対象 |
|---|---|
公共工事標準請負契約約款 |
国・自治体などが発注する公共工事 |
民間建設工事標準請負契約約款(甲) |
民間の比較的大きな工事 |
民間建設工事標準請負契約約款(乙) |
個人住宅など民間の小規模工事 |
|
建設工事標準下請契約約款 |
公共・民間を問わず下請契約全般 |
標準約款は使用が法律で義務付けられているものではない。だからこそ、元請が独自に作成した契約書と標準約款との違いを把握しておくことが、交渉の出発点になる。
約款はこれまでも、社会保険加入の推進(2017年)、改正民法に伴う契約不適合責任(契約不適合責任とは:引き渡した目的物が契約内容に適合しない場合に受注者が負う責任)の反映(2019年)、災害復旧工事における受注者負担の撤廃(2022年)など、時代に合わせて改正されてきた。
直近の大きな動きが、改正建設業法を含む「第三次・担い手3法」の全面施行である。2024年12月13日からは、資材高騰に伴う請負代金の「変更方法」が契約書の法定記載事項となった。
さらに2025年12月12日からは、著しく低い労務費による見積りの禁止に加え、受注者側による原価割れ契約も禁止された。これを受けて中央建設業審議会は2025年12月2日、4つの標準約款を一斉に改正し、「コミットメント」条項の新設や、価格変動に基づく契約変更協議に関する条項の見直しを行なった。
時期 |
主な内容 |
|---|---|
2024年12月13日 |
請負代金の「変更方法」が契約書の法定記載事項に |
2025年12月2日 |
中央建設業審議会が4つの標準約款を改正 |
2025年12月12日 |
著しく低い労務費による見積りの禁止、受注者による原価割れ契約の禁止 |
国土交通省は、契約変更に関する条項が十分に盛り込まれていない契約が多いことが、資材高騰分の適切な転嫁を妨げ、労務費を圧迫してきたと分析している。「安く請けて現場で吸収する」というやり方は、法的にも通用しにくくなりつつある。
第一に、請負代金の変更方法が明記されているか。資材価格に著しい変動が生じた際に代金の変更を請求できるか、協議の手順はどうなっているかを確認したい。
第二に、工期と工期変更の条件である。元請側の事情による遅れや天候不順の扱いが曖昧だと、無理な突貫工事や遅延損害金のリスクを抱えることになる。
第三に、支払条件である。支払時期、現金か手形か、出来高払いの有無は資金繰りに直結する。
第四に、契約不適合責任の範囲と期間である。責任を負う期間が不当に長く設定されていないか注意が必要だ。
第五に、紛争時の解決方法である。建設工事紛争審査会(建設工事紛争審査会とは:建設工事の請負契約に関する紛争を、あっせん・調停・仲裁によって解決する公的機関)の利用が定められているかも確認しておきたい。
気になる条項があれば、標準下請契約約款と見比べたうえで、根拠を示して修正を申し入れるのが有効だ。また、見積りの段階から労務費や法定福利費を内訳として明示しておけば、価格交渉での説得力も増す。
工事請負契約約款は、下請の中小建設会社にとって自社と職人を守る「盾」である。制度改正で契約書の重みが増した今、押印前に条項を読み込む習慣こそが、適正な利益と健全な経営への第一歩となる。
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【参考】
・「建設工事標準請負契約約款」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html)
・「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00033.html)
・「建設工事標準請負契約約款の改正について」(国土交通省 中央建設業審議会)(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001971355.pdf)
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