記事を読み込み中です
「明日の朝までに見積もりを出してほしい」。元請からこうした依頼を受け、図面を十分に読み込めないまま金額を出した経験を持つ中小の専門工事業者は少なくない。
しかし工事の規模によっては、短すぎる見積依頼そのものが建設業法違反となる可能性がある。本稿では、見積期間の基本ルールと、短い期限を示されたときの実務的な対応を整理する。
例えば次のようなケースが考えられる。内装工事を手がける協力会社が、元請から予定価格700万円規模の改修工事について、3日後を期限とする見積依頼を受けた。現場調査の時間が取れず、過去の類似工事の単価を流用して提出したところ、着工後に下地の補修範囲が想定を大きく上回ることが判明する。追加費用の協議はまとまらず、利益の大半が失われた。
実はこの「予定価格700万円で見積期間3日」という条件は、国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(建設業法令遵守ガイドラインとは:元請と下請の取引で法令違反となる行為を国が具体例で示した指針)において、違反となる行為の例としてそのまま挙げられているものである。
※画像はイメージです
見積期間が短いと、数量の拾い出し、現場確認、資材価格の照会、二次下請への問い合わせといった工程を省かざるを得ない。その結果、施工上のリスクを価格に織り込めないまま契約に進むことになる。下請側は取引関係を考えて期限に異を唱えにくく、無理な日程を受け入れてしまうのが実情だ。
ガイドラインは、期限を「出来るだけ早く」とする曖昧な指示や期限を設けない依頼、見積条件への質問に回答しない対応についても、違反となるおそれがある行為として示している。
建設業法第20条第3項は、注文者に対し、契約内容をできる限り具体的に提示したうえで、見積期間(見積期間とは:契約内容の提示から契約締結までに設けなければならない最短の期間)を確保するよう義務付けている。日数は政令で定められており、工事1件の予定価格(予定価格とは:注文者が見込む工事1件あたりの価格で、最終的な契約金額とは異なる)に応じて、500万円未満は1日以上、500万円以上5000万円未満は10日以上、5000万円以上は15日以上とされる。
やむを得ない事情がある場合に限り、10日と15日の区分は5日以内で短縮できるが、1日の区分に短縮の規定はない。期間の数え方は、提示した日と契約日を含めない方法で、6月1日に提示した場合、10日以上の区分なら契約できるのは6月12日以降となる。土日や祝日も日数に含まれる。また、追加工事の見積依頼にも同じ期間が必要とされている点は見落とされやすい。
令和6年に成立した改正建設業法は、2025年12月12日に全面施行された。これにより、中央建設業審議会が示す労務費の基準(労務費の基準とは:技能者の賃金を適正に確保するため国が示す労務費の目安)に照らして、著しく低い労務費などによる見積もりや契約が禁止され、受注者による原価割れ契約も禁じられた。
あわせて、材料費や労務費などの内訳を明示した見積書の作成に努めることも求められている。内訳を積み上げた見積もりには相応の時間がかかるため、適正な見積期間の確保は改正法への対応の前提条件といえる。
※画像はイメージです
第一に、依頼を受けた時点で予定価格と期限を確認し、法定日数と照らし合わせる。金額が示されていない場合は、規模感を問い合わせておくとよい。
第二に、期間が不足している場合は、メールなど記録が残る方法で延長を相談する。法定の日数とガイドラインの記載を根拠として添えれば、感情的な対立を避けながら交渉できる。なお、下請側が自らの判断で期限前に提出するのは例外として認められるが、元請に促されての早期提出はこれに当たりにくい。
第三に、図面や仕様の不明点は文書で質問し、回答が得られない事項は前提条件として見積書に明記する。後日の追加費用協議で重要な根拠となる。
第四に、改善が見られない場合は、国土交通省の建設業法令違反通報窓口(駆け込みホットライン)への相談も選択肢となる。同時に、適正な取引条件を示す元請や協力会社との関係を日頃から広げておくことが、特定の取引先に依存しない経営につながる。
見積期間は、下請が適正な価格を算出するために法律が保障した時間である。急ぎの依頼に無理をして応じるのではなく、法定日数を把握したうえで記録に残る形で相談することが、赤字工事を防ぎ、改正法の時代に利益を守る第一歩となる。
短すぎる見積依頼に振り回されない取引関係を築くために、適正な条件で仕事を任せ合える元請・協力会社探しには、無料の建設業向けマッチングサービス『建設円陣』へのご登録をぜひご検討ください(緑のバナーをクリック)。
➡関連記事:労務費の相場と考え方|一人親方・協力会社への発注で損しない方法
お問い合わせフォームを読み込んでいます。お問い合わせページもご利用いただけます。
お問い合わせフォームを読み込み中です「建設円陣PLUS編集部」は、建設業界に特化したプラットフォーム「建設円陣」を運営する株式会社エンジョイワークスの編集チームです。中小建設業の経営・人材・現場課題を、国土交通省・厚生労働省、業界専門紙や公的機関の情報をもとに解説します。