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「売上は伸びているのに、手元にお金が残らない」。中小の建設会社でよく聞かれるこの悩みの多くは、工事ごとの採算を着工前に固めていないことに原因があります。対策の柱となるのが実行予算(実行予算とは:受注した工事を実際に施工するためにかかる材料費・労務費・外注費・経費を、工種ごとに積み上げた社内向けの予算書)です。
本記事では、典型的な失敗例から原因、制度面の変化、具体的な作り方までを順に解説します。
例えば、元請から受注した店舗改装工事を、見積金額をそのまま予算代わりにして着工したケースを考えてみましょう。工期の後半に下地補修の追加や職人の手配替えが重なり、完工後に精算すると粗利(粗利とは:売上から工事原価を差し引いた利益)はほぼゼロ。一般管理費を含めれば赤字です。しかも経営者が赤字に気づくのは、請求書が出そろった完工の翌月という例が少なくありません。
問題は追加工事そのものではなく、「いくらまで使ってよいか」という基準が現場と経営者の間で共有されていなかった点にあります。基準がなければ、予算超過に途中で気づく手段がありません。
※画像はイメージです
工事ごとの赤字には共通する原因があります。
第一に、見積書と実行予算を区別していないことです。見積書は顧客に示す「売値」であり、値引きや調整を経て決まった金額です。一方、実行予算は自社が実際に支払う「原価」の計画であり、両者は本来別物です。
第二に、原価管理(原価管理とは:工事にかかった費用を記録し、予算と比較して差異を把握・改善する管理手法)が完工後の集計にとどまっていること。第三に、材料や外注の発注が担当者任せで、発注時点で予算と照合する仕組みがないことです。
制度面でも、原価を正しく把握する重要性は高まっています。2024年6月に公布された改正建設業法(建設業法とは:建設工事の適正な施工と、発注者・下請業者の保護を目的とした法律)では、受注者側が原価を下回る金額で契約を結ぶことも原則禁止されました。あわせて、中央建設業審議会が労務費に関する基準(労務費に関する基準とは:技能者に適正な賃金を支払うために必要な労務費の目安として国が示す基準。いわゆる標準労務費)を作成・勧告する仕組みも設けられ、2025年12月までに順次施行されています。
自社の原価を根拠をもって説明できなければ、価格交渉でも不利になりかねません。実行予算は社内の利益管理だけでなく、適正な取引を進めるための根拠資料にもなります。
ステップ1:工種ごとに分解する。見積内訳をもとに、仮設・基礎・躯体・仕上げなど工種単位に分け、それぞれに材料費・労務費・外注費・経費を割り当てます。
ステップ2:最新の単価で積み直す。見積時点から資材価格が変動していることも多いため、仕入先や協力会社から改めて見積を取り、実勢価格で原価を計算します。
ステップ3:目標粗利を確保できるか確認する。契約金額から実行予算額を差し引き、必要な粗利率に届くかを着工前に判断します。届かない場合は、工法や発注先の見直し、追加工事の交渉方針をこの段階で決めておきます。
ステップ4:現場と共有し、月次で実績と比べる。現場監督に予算額を伝え、発注のたびに工事台帳(工事台帳とは:工事ごとの収入と支出を記録する帳簿)へ記帳します。月に一度、予算と実績の差異を確認すれば、超過の兆候を早めにつかめます。
最初から高額なシステムを導入する必要はありません。Microsoft Excelで「工種・費目・予算額・実績額・差異」の列を設けた表を作るだけでも、管理の精度は大きく上がります。
案件数が増えて集計が負担になってきたら、施工管理アプリ「ANDPAD」のように実行予算や発注、原価の管理機能を備えたクラウドサービスの活用も選択肢です。大切なのはツールの高度さではなく、着工前に予算を確定し、全員が同じ数字を見て動くことです。
工事ごとの赤字は、完工後に気づいても取り戻せません。着工前に実行予算を作り、現場と共有し、毎月の実績と照らし合わせる。この地道な仕組みこそが、資材高騰と規制強化が続く時代に会社の利益を守る最も確実な手段です。
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【参考】
・「第三次・担い手3法ポータルサイト」(国土交通省)(https://ninaite-sanpo.mlit.go.jp/)
・「労務費に関する基準ポータルサイト」(国土交通省)(https://roumuhi.mlit.go.jp/)
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