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見積書を提出した後、元請や施主から「もう少し出精値引をお願いできませんか」と頼まれた経験は、多くの中小建設会社にあるはずです。出精値引(出精値引とは:「精一杯努力して値引きした」という意味で、見積金額から端数などを差し引く商慣習上の値引き)は、取引関係を円滑にするための慣習として長く定着してきました。
しかし、端数調整のつもりで応じた値引きが積み重なり、職人への支払いや資材費を賄えなくなる例は少なくありません。たとえば総額480万円の内装工事で「切りよく450万円に」と頼まれ、30万円を値引きしたとします。粗利率が1割程度の現場であれば、それだけで利益の大半が消えてしまいます。そこに手直しや資材の値上がりが重なれば、現場単位で赤字に転落するのは避けられません。
断れない最大の理由は、「次の仕事がもらえなくなるかもしれない」という不安です。特定の元請からの受注に売上を依存している会社ほど、取引関係の悪化を恐れて言い値に近い金額で応じてしまいがちです。「他社はもっと安く出している」と比較を持ち出されると、根拠を確かめないまま金額を下げてしまうケースも見られます。
また、自社の原価を正確に把握できていないことも原因の一つです。労務費、資材費、法定福利費(法定福利費とは:健康保険や厚生年金など、事業主が法律上負担しなければならない社会保険料)、現場経費を積み上げた原価がいくらなのかが曖昧なままでは、どこまで値引きできるのかを判断できません。
こうした状況を大きく変えたのが、2025年12月12日に全面施行された改正建設業法です。従来は、注文者が取引上の地位を不当に利用して原価割れの契約を結ばせることが禁止されていましたが、改正により受注者である建設業者自身も、正当な理由なく原価に満たない金額で契約を結ぶことが禁止されました。
さらに、中央建設業審議会が定める労務費に関する基準(いわゆる標準労務費。標準労務費とは:技能者の適正な賃金を確保するための目安として示される労務費の水準)に照らして、著しく低い労務費での見積りや、その水準まで引き下げるよう求める変更依頼も禁止されています。つまり、労務費を削る形での過度な出精値引は、頼む側も応じる側も法令違反となるおそれがあるのです。
なお、2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法とは:旧下請法を改正し、委託者と受託者の取引を規律する法律)は建設工事には適用されず、建設工事の取引は引き続き建設業法で規律されます。
第一に、見積書の内訳を明確にすることです。労務費、法定福利費、安全衛生経費を項目ごとに明示しておけば、値引きを求められた際に「この部分は法令上削れない」と根拠を持って説明できます。改正法の趣旨を伝えること自体が、交渉の有力な材料になります。
第二に、値引きに応じる場合は「範囲」と「条件」を事前に決めておくことです。一般管理費の一部や端数に限定する、工期に余裕を持たせてもらう、支払いサイトを短くしてもらうなど、値引きと引き換えの条件を提示する方法があります。
第三に、最終金額を必ず書面で残すことです。口頭の合意だけでは、後から追加の値引きを求められる原因になります。契約書や注文書に金額を明記し、変更が生じた場合も書面で取り交わすことが自社を守る基本です。
それでも不当な値引き要求が続く場合は、国土交通省の建設業法違反通報窓口(駆け込みホットライン)に相談する選択肢もあります。加えて、特定の元請に売上を依存しない体制づくりも欠かせません。取引先が複数あれば、無理な値引きを断る判断もしやすくなります。
※画像はイメージです
出精値引は長年続いてきた商慣習ですが、法改正により「原価割れでも受ける」という選択はもはや許されなくなりました。自社の原価を把握し、根拠ある見積りで堂々と交渉することが、職人の処遇と会社の利益を守る第一歩です。
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【参考】
・「第三次・担い手3法(品確法と建設業法・入契法の一体的改正)について」(国土交通省)(https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000193.html)
・建設業法令遵守推進本部「駆け込みホットライン(建設業法違反通報窓口)」TEL:0570-018-240
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